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【旅エッセイ64】東京攻略(1)

 何日か前に東京を題材にエッセイを書いたからか、東京について想いを巡らせている。

 日本中、世界中からたくさんの観光客が東京にやってくる。私は東京でずっと働いていたのに、彼らが何を求めて東京へやってくるのか知らない。何年も大手町で乗り換えをしていたのに、大正ロマンの魅力を誇る赤レンガの駅舎を見たことがない。

 考えてみれば東京タワーに登ったこともないし、職場からスカイツリーが見えるのに登ろうと思ったこともない。東京のことを何も知らない。旅人が何を求めて東京に集まるのか。

「書きたい」と、急に欲求が生まれた。

 それは不思議な感覚で、今までだってエッセイを書いていたしエッセイを書き始める前はずっと小説を書いていた。書くというのは私にとって日常の身近な行為なのに、こんなに強烈に「書きたい」と感じたのは初めてだった。ああ、これが書きたいという欲求なんだな、と感動したほどだった。

 私が知らない東京のことを体験して、書きたい。なので、突発的に東京駅へ向かった。

 初めて乗り換えの為ではなく、観光目的で大手町の駅を降りた。通勤経路の途中で「観光」するというのも奇妙な感じだけど。

 私はずっと、都会が怖かった。人の多いところが苦手で、満員電車が最たるもの。肩がぶつかって舌打ちされるのも怖いし、満員で身動きが取れないのに頑なに動こうとしない人も怖い。人波に酔ってしまうからたくさんの人が集まる場所ではいつもイヤホンで音楽を流して、目を瞑って感覚を遮断していた。

 でも、今日は違った。やっぱり都会の人の多さは疲れてしまったけれど、東京駅から皇居外苑に向かう大通りは広々として、高いビルに囲まれていたけれど解放感があった。

 それに、初めて観た赤レンガの東京駅は美しかった。きっとこういう魅力が東京にはたくさんあって、それに惹かれて旅人がやってくるのだろう。

 東京の美しさを探そう。苦手だった東京を克服しよう。そういう意味で「東京攻略」とエッセイに名前を付けた。

 まずは東京駅に行った。次はどこへ行くか、そもそも次があるかもわからない。けれど、書きたいという欲求に素直に、書けるだけ書いてみようと思う。
 


また新しい山に登ります。