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noteで面白かった話

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noteの中で良いなあと思った作品をまとめます。
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2014年4月の記事一覧

誰も知らない国

誰も知らない国

【小説】※無料で最後まで読めます

秘密のかくれ家で本のページをめくる。

かくれ家といっても、巨大な廃屋の物置だ。僕が勝手に侵入して、電気スタンド、大量の本、ミュージックプレイヤー、カントリーマアム、はと麦茶、駒の足りないチェス、なんかを持ち込んで、かくれ家って呼んでるだけ。

もともと置いてあったぼろぼろのソファやら額縁に入った変な抽象画やら、なかなか雑多な感じだ。

だけど、かくれ家の扉を閉

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マジック・カーペット

マジック・カーペット

【小説】 ※無料で最後まで読めます

夢の中で生真面目なセールスマン風の男に魔法の絨毯を手渡された。その絨毯の上に乗り、心の中で念じるだけで、意のままにあやつることができるという。アラームの音で目を覚ます。枕もとに巨大なロールケーキが置いてあった。よく見ると、ぐるぐる巻きにされた絨毯らしきものだ。絨毯らしきものを狭い部屋の中で広げてみる。絨毯らしきものは絨毯になった。ペルシア風の細かい刺繍が施され

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パン屋のブロッサム

5年ほど前に住んでいた永福町の駅前にブロッサムというパン屋があった。

ブロッサムはバゲットとパン・オ・ショコラとアンパンだけしか扱っていないパン屋で当時いっしょに住んでいた彼女の大のお気に入りの店だった。

春になるとアンパンの窪みのところに桜の花びらが埋め込まれたタイプのものが登場して、彼女は春が近づくと「ブロッサムのアンパン、桜になったかなあ」と確認のために毎日通いつめた。

ブロッサムは店

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魔法のクレヨン

私がまだ小さい頃、病院のベッドで瀕死の母がクレヨンを見せてこう言った。

「もしあなたに困ったことがあったら、このクレヨンで絵を描きなさい。そしたらその絵があなたを助けてくれるから」

私は「じゃあ今から魔法使いの絵を描いてお母さんの癌を治してもらう」と言って絵を描き始めた。

しかし、その絵が完成する前に母は息を引き取ってしまった。

お葬式の日は一日中お花を描き続けたので、母が眠っている

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大泥棒のこだわり

その大泥棒は多くの物を盗んだ。

海賊の財宝はもちろん、お姫様の初恋や小国のプライドと未来、満月の夜のため息、真っ白な雪の上に落ちた桜の花びら、とにかくありとあらゆる物を盗んだ。

当然のことながらその大泥棒は全世界に指名手配された。

世界中に大泥棒の人相書きのポスターが貼られ多くの探偵や秘密警察達がその大泥棒を捕まえようとやっきになった。

しかし、その大泥棒は世界中の自分のポスターを盗み、み

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彼女の21年

彼女の21年

【小説】 ※無料で最後まで読めます

彼女の右目の中には21個の海がある。詩的な表現。とかではなくて、それは文字通りの意味でしかない。彼女の右目の中には21個の海がある。
「年の数だけあるのよ」と彼女は言う。「おばあさんになる頃には、ほんとに私の右目はうるさいだろうな。潮騒とか、海鳥の鳴く声とか、朝日に照らされた水面のきらきらした感じとかが」

21個の海にはひとつひとつ名前もある。ぜんぶ彼女が付

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