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知らない世界の扉が開いた - 三菱地所株式会社【体験者インタビューVol.3】

【体験者インタビューVol.3】

こんにちは、ベネッセアートサイト直島 エデュケーション担当の大黒です。

ベネッセアートサイト直島でのプログラム体験者の声をお届けするインタビュー企画・第3回目となる今回は、「三菱地所株式会社」の岡崎新太郎さんにお話を伺いました。


■プロフィール

岡崎 新太郎(三菱地所 空港事業部 ユニットリーダー)

1999年三菱地所入社。コーポレートスタッフを経験した後、北海道でマンション・ニュータウンの開発に関わり、その後は住宅事業部門で主に企業買収・統合・組織作りに従事。現在は空港事業部で空港とその地域に関わる中で、瀬戸内やアートの持つ力に興味を持つ。

ベネッセアートサイト直島では、香川県と三菱地所株式会社主催のワーケーションプログラムの一環で「地域とアート」をテーマに、2022年の冬より計3回のプログラムを実施。その後、丸の内にて対話型鑑賞の体験プログラム、直島・豊島でのプログラムを実施しました。


大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムを体験しようと思ったきっかけや目的、実際に得られた効果を教えてください

岡崎:昨冬に社内のメンバーが瀬戸内海の島々でワーケーションに参加したんですね。自然豊かな地域で働くということに加えて、アートの対話型鑑賞や地域の町づくりに関わる方とのコミュニケーションが盛り込まれているプログラムだったのですが、参加したメンバーが目をキラキラさせながら報告してくれたのが印象的でした。どこが良かったのか聞いてみると、「対話型鑑賞っていうものを通してチームビルディングにもなりましたし、相手の考えや自分の考えが非常によく分かったんですよ」みたいな話があって。アートがどうっていうよりは、その結果、チームビルディングができるんだっていうのが私の第一印象でした。

ワーケーションプログラムの様子

岡崎:興味深いなと思って更に話を聞く中で、参加者と参加していない人の温度差をすごく感じました。じゃあ実際に体験してみると分かるだろうからやってみようという話になりました。ただ、時間や費用的にすぐに体験するのは難しく、福武財団の藤原さんに相談し、丸の内仲通りにアート作品が並ぶ丸の内ストリートギャラリーを活用して東京で対話型鑑賞を体験する機会をつくってもらいました。

実際に体験してみるともう目から鱗で。普段のビジネス上の会議では、例えば役職や知識量などに影響されて発言量は人によってだいぶ異なるのが通常だと思うのですが、藤原さんが「作品のどこを見てそう思ったんですか」と誰もが自分を主語にして答えられる質問を繰り広げてくださったので、この場においてはほぼ全員が同じ量を喋っているなというのがまず第一印象でした。更に、その話の中身を深堀していくと、普段同じ感覚で仕事をしていると思っていた社員と私の感覚が全く真逆であるってことに気付かされて(笑)普段の仕事や飲み会でも全く話題にあがらなかったような、お互いの考え方の深い部分が引き出せたなという印象でした。また、自分が気になる作品を自由に選んだのですが、全員バラバラだったのも印象的でした。この多様性がとっても素晴らしいと思っていて。最初は自分がスルーしていた作品も、他の方の話を聞いているとだんだん興味がわいてきて。今までの自分の感覚とは違う感覚やものの見方が備わってきた感じがしました。

丸の内でのプログラムの様子

岡崎:その後、社内の複数部署・社外のメンバーで一緒に直島、豊島でプログラムを実施しました。施設にアートを取り入れられないか議論をしていた際に、メンバーの共通認識として単に作品を持ってきて飾るのではなく、何らかの目的に対してアートの力で解決したり、発展させたりすることを考えたいというニーズがあって。どうなるかは分からなかったけれど、その答えは対話型鑑賞にあるかもしれない、そんな予感で行きました。

岡崎:実際に体験してみて、人それぞれ「これがいい」っていうものがやっぱりバラバラなんだ、というのが印象的でした。すごく興味がわいて、理由を聞いてみるとその人の興味があることや今までの生き方とすごく連動していて。話せば話すほどお互いが分かるのと、発見があるので、自分の思考にも随分影響するなと思いました。逆に分かりづらくなったこともあって、例えば有名な作家の作品を持ってきたら人がいっぱい来てくれるかな、みたいな単純な話ではなく、それが人によって受け入れられるかどうかって随分差がありそうだなっていう新たな悩みが生まれました(笑)


大黒:プログラムに参加する前後で岡崎さんご自身に変化はありましたか?

岡崎:変化は相当ありました。まず一つは、今まで自分になかったアンテナが立ったことです。豊島横尾館は、来島前の自分の調べではちょっと難しいかもしれないと思っていました。実際に入館すると、空間として長くいられない気がして、好きな部類には入らないと思ったんですね。ところが、日常生活において、横尾忠則さんの展覧会やってます、と聞くと行こうかなと思ったり、興味の対象になってしまっているんだという発見が、3か月くらい経ってボディーブローのように効いてきました。来館した際に、感覚的な拒絶を感じた一方で「世の中に、本当は自分の目の前にもあったりするのに、好き嫌いで興味ないからスルーしているものがあるんだ」という発見があったものですから、そういうものをずっと見ないであと数十年生きていくと一生関わらないんだなって、ちょっと恐ろしさもあって。何も知らないで生きているんだなという感覚が非常に強くなりました。知らない世界の扉が開いた感じです。

普通に街を歩いていると「こんなところにアートがあるんだ」とアートが目に飛び込んでくるようになったのも変化だと感じています。また、好きか嫌いかで判断する前にもうちょっと見てみようかなと思うようになったのも行動として変化した点かと思います。

あと、直島の家プロジェクト「南寺」で、普段自分が見ているものと隣の人が見ているものって全然違うんだという発見がありました。何も見えない間はみんな一緒だと思っていたのですが、自分には見えない何かを見つけて「あー」とか言い出す人が隣にいて(笑)自分の違いを感じましたし、共通認識だと思っていることは疑った方がいいってその時すごく思いました。自分の人生観にも影響した体験です。


大黒:他の参加者に見られた変化があれば教えてください

岡崎:やっぱり「いいな」と思う対象が毎回全然違うというか、お互い違う理由で述べているのが面白いなと思いました。現代アートが答えを決めていないせいなのか、感想もバラバラという。なので変化というより、ずっとみんなバラバラなんだという印象でした。

例えば、日本人はラーメンとカレーどっちが好きか、というような検証があった時に、どちらかが多かったと聞いて「ああ、そうなんだ」と単純化して理解しようとする。けれど、実は理由を色々と聞いてみるとみんな相当バラバラな話をするんじゃないかと。世の中単純化して騙されているんじゃないかって思うようになった。多様性が大事と言われているけれど、もともとみんな相当多様だな、と思いました。


大黒:プログラムの中で最も印象に残っている場面を教えてください!

岡崎:また来たいと思ったところはたくさんありました。豊島にある≪心臓音のアーカイブ≫では、過去に訪れた人の名前を見つけることができたり、今この瞬間自分が残したことを将来息子たちが訪れた時に時間を超えて繋がることができるんだと考えたり、同時じゃない、一緒じゃないけれど、お互いの時間や体験を共有することができるんだ、すごい仕組みだなと思い、即座に自分の心臓音を登録しました。その結果、やっぱり愛着があるというのと、自分もそこに関わったという今までにない満足感というか、関わりが深くなった感覚が生まれました。


大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムで「こんなことがしてみたい」ということがあれば教えてください!

岡崎:とにかく行ってみないと分からないことがたくさんあったので、できるだけ多くの人にそれを伝えたいと思いましたし、体験する機会を作りたいと思いました。時間と費用がそれなりにかかるのと、かなり手厚くサポートいただいたから実現したと思っていて、体験の深さと手軽さのバランスがまだ見えないのが悩みですね。


大黒:ベネッセアートサイト直島のプログラムを薦めるとしたら、どんな方に薦めますか?

岡崎:ビジネスにおいてなかなか意見が合わない人と一緒に行くと何か変わるんじゃないかと思っています。相互理解に繋がるというか。対話型鑑賞を通して深いところで理解が深まるか、更に差を感じて分かれるか、伸るか反るか面白そうです(笑)

あと、可能性があると思っていたのは新人研修。そもそもみんな違うという認識を持つ機会がどこかであるといいなと思っています。会社の新入社員研修では「会社が目指す方向性」「社員が期待されている行動」といったことが伝えられてると思いますが、それにより一人ひとりの個性がマイルドになってしまうのではないか?という感覚もありまして。そもそもみんなポテンシャルとしては非常に多様な考えを持っていて、これが活かされると面白いよねっていうのがスタートラインであってもいいかなと思いました。

岡崎:最初に丸の内で体験させていただいた時に、チームのメンバー全員が「アートが身近になった」と口を揃えて言っていました。プログラムを体験する半年前に自分の関わる事業でもアートに力を入れていくことになり、関わりたい人を募ると誰一人手を挙げなかった。「アートは好きか?」「アート分かるか?」と問うと「いやちょっと…特に…」ってみんな答える。けれど、丸の内での体験以来「アートに関わってみたいか?」という問いに変えて聞いてみると全員がやってみたいと言っているわけです。紐解いてみると、知識を蓄えなくても、一旦は自分の考えが受け入れられる世界なんだと分かったのが一番大きくて。それならやってみたい、という気持ちから始まり、抵抗がないので自分で調べ始めるなど、そんな循環が生まれています。

プログラム中、ポロッとまとまりきっていないことを発言した時に、それをきちんと受け止めてくださり、次の発言に繋げるというコミュニケーションがなされていました。それを見ていると普段話す機会が少ない人が喋り始めたので、そこにポイントがあるんだろうなと捉えていました。自分が自由に喋ったことをまず受け止めてくれている、だから次喋っても安心感がある、そういう空気感ってすごくベーシックに大事なんだろうなと思いました。


おわりに

今回は「三菱地所株式会社」岡崎新太郎さんへのインタビューをお届けしました。ご協力ありがとうございました!

これまでのプログラムはこちらからご覧いただけます↓
①ワーケーション第1回(2022/11/15-16)
②ワーケーション第2回(2022/12/20-21)
③ワーケーション第3回(2023/1/24-25)
④新しいアイディアに出合う 三菱地所×MAGUS(2023/7/28-29)


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