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『ジャンヌ Jeanne, the Bystander』の感想文

既に2024年も一月終わろうとしているが、今思い返して昨年(2023)に読んだ本で一番印象に残った本を紹介してみる。

実はいま記事を書こうとして、タイトル(以下、『ジャンヌ』と略記)の英語の部分も著者名も覚えていないことに気が付いた。簡単に紹介しておくと、著者であるところの河合莞爾は2012年に第32回横溝正史ミステリ大賞を『デッドマン』(読んでない)で受賞しデビュー(とのこと)。『ジャンヌ』は2019年に単行本(祥伝社)、2022年に文庫版(祥伝社文庫)が発売されている。僕が読んだのは、もちろん文庫版。いま調べたら両者で値段はあまり変わりないです。完全に表紙のイラストと帯の文句に釣られて買いました。

なぜ、お前は人を殺すんだ?

文庫版『ジャンヌ Jeanne, the Bystander』の帯

個人的には、文庫版の表紙の方が好きです。単行本の表紙だったら、買ってなかったかも。

次の区切り線から、その次の区切り線までは導入部分のあらすじです。ネタバレはありませんが、裏表紙に記されている領域よりは少し後ろまで紹介していますので、最初から最後まで読みたい方は飛ばした方が良いかもしれません。



日本の人口が5,000万人まで減少した2060年代、労働力不足を補うロボットの存在は珍しくなくなっていた。それらのロボットには、アイザック・アシモフ氏が提唱した「ロボット工学三原則」をベースに作成された「自律行動ロボット三原則」が搭載されており、人間を殺すどころか危害を加えることすら出来ないはずだった。

ある日、警視庁第一機動捜査隊の相崎按人あいざきあんと
「ありえない」現場を目撃する。

政府主導で開発された家事用人間型ロボットアンドロイド〈ジャンヌ〉が主人を殺害し、風呂場でその死体を洗っていたのだ。ロボットのAIには厳重にプロテクトが掛けられており、科捜研での調査では原因を見出せなかった。また、そもそも三原則が読み込まれないと起動も出来ない構造である。より精密な検査を行うため開発元であるジャパン・エレクトロニズム社の本社へ搬送することになるが、その移動中に何者かの襲撃を受ける。同行した相崎按人の窮地を救ったのは他ならぬ〈ジャンヌ〉であった。物語が進むにつれ、状況は暗鬱たる方向へと転げ落ちていく……。



そのまま映画化できそうなスリリングかつスピード感溢れる展開が、読ませます。終盤は一気読みでした。SF好きなら堪らない、AIと技術的特異点シンギュラリティ、トロッコ問題にフランケンシュタイン・コンプレックスなんかも盛り込まれています。特殊素材からミリタリ用語の解説、そんなの実現可能なの? っていうくらい驚かされた初めて聞くギミックも彩りを添えます。ここら辺はストーリーと関連していたりするので、ご自分で読んで妙味を感じていただきたい。あらすじで触れた人口問題に加え、国土開発、防衛問題も織り込まれていて、お腹いっぱいになれます。

さて、ことあるごとに《私は、自律行動ロボット三原則に逆らう行動はできません》と発言する〈ジャンヌ〉は、なぜ人間を殺せたのか? つまり、三原則を遵守したまま人を殺せるのかが、この作品を通しての謎であり鍵なのですが、これについては最後に回答が示されます。ある種、とても残酷で、しかし潔く。そして、締め括りの最後の1文にも気が抜けません。



ロボットは新しい国民です。

この言葉が一転して醜く歪められるのが、一番後味悪かった気がします。僕は神を否定しながらも、万物に霊が宿るとするアニミズムの尻尾を引き摺っているのかもしれません。




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