にひと

ここは小説のみ。甘党だが、コーヒーは無理してブラックで飲むタイプである。

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最近の記事

もはや想像力は不要と言うのか!?

 うーむ、と私はAmazonの箱から取り出したゲームのパッケージを見ながらうなり声をあげた。本当に妻が外出中でよかった。ベストな配達タイミングである。配達員さん、ありがとう。  手にしているのは、「ダンジョントラベラーズ2 王立図書館とマモノの封印」というゲームのパッケージである。図書館らしき壮麗な空間の中、十人以上の美少女たちが描かれている。中には巨乳もいれば、きわどいコスチュームの女の子もいる。  こんなものをクレオパトラ似の妻に見られたら、申し開きができないではない

    • 死に際の魔術師

       葬式が増えたなあ。  おれは、喪服を吊しながら、つい独り言を言う。ついでに言うと、白髪も増えたしトイレに起きる回数も増えたし、なにより独り言も増えた。減っていくのは、残りの寿命のみだ。  言っておくが葬式は嫌いである。まあ、当たり前だろう。葬式が好きなのは、坊主と葬儀屋と政治家だけだ。普通の人にとって、知人の親や遠い親戚の葬式は面倒なだけである。  そもそもおれは、舌が短いせいか滑舌が悪い。特に「ご愁傷様です」などの複雑な発声はできないのである。いつも、「ごすーそーさ

      • iPhone殺人未遂事件

         スマホが手からすっぽ抜けた。飛んでいった先は、書棚のガラス戸である。見事に割れた。  新しいスマホを買って、ジェスチャー機能を見ていると「二度振ればフラッシュライトが付く」と書いてあったのでやってみたのだ。まるで魔法の杖ではないか、とやってみたら飛んでいったのである。  書棚のガラスは割れたが、スマホは無事だった。買ったばかりのスマホだから、あわてて駆け寄ったのだがなんともなかった。  一応、スマホケースと保護ガラスは付けていたのである。備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖、英

        • その可能性は低いがゼロじゃない

           うちの近所に川がある。さほど川幅は広くないが、川床に遊歩道があり、100本ほどの桜並木もある。桜が散る頃になると、おれはいつも片肌脱いで「この桜吹雪が眼に入らねえか」と言いたくなる。時代劇にしか心が躍らない年寄りなのだ。  景色が美しく車や自転車の心配がないせいか、ジョギングをする人も多い。年寄りらしく散歩などをしていると、ハアハアなどと卑猥な息づかいの女子大生が走るのに出くわす。近くに女子大があるのだ。つい後ろを付いて走りたくなるのである。歳をとってもスケベ心はまだまだ健

        もはや想像力は不要と言うのか!?

          それを年寄りの冷や水と言う

           諸君、年寄りは、嫌いかね?  私は嫌いだ。私は、彼らを忌み嫌っている。年寄りは、いつも自分だけが正しいと思い込んでいる。頑迷で不機嫌でプライドだけが高く、同じ話を何度も繰り返し、いつもアクセルとブレーキを踏み間違える。  今日も近所の河原でそんなジジイを見かけた。もちろんババアもいる。春には桜並木が美しい河原であるが、年寄りのせいで随分と美観が損なわれている。実に嘆かわしい。  そのジジイは、ストレッチらしきものをしていた。その姿が実に奇妙だった。おそ松くんに出てきた

          それを年寄りの冷や水と言う

          耳鳴りの向こう側

          「大丈夫ですか?」と声がする。  得意先の担当者、名前は山本だったか。いや、山下だったかもしれない。広告代理店の打ち合わせブース。使っているのは我々だけで、あたりは静まりかえっていた。 「ええ、大丈夫です。ちょっと耳鳴りがして……」 「それはいけませんね。そう言えば、以前も耳鳴りがすると言っておられた。耳鳴りと言っても馬鹿にできませんよ。脳腫瘍、脳出血、脳幹梗なんていう可能性もある。意外と怖いんです。一度、病院に行かれてはどうですか?」 「いや、本当に大丈夫です。失礼

          耳鳴りの向こう側

          ウルトラセブンになれなかった男

           柄にもなく過去を振り返っていた。いや、過去なのか。それとも夢なのか。なぜか、このところ頭がぼんやりしていて、頭に浮かぶのはあやふやな記憶ばかりである。  あれは、まだ学生だった頃のことだ。おれは一人の美少女と付き合っていた。  誰に似ているかというと、クレオパトラ似としか言いようがないほどの美少女で、二人で外出すると必ず注目の的になった。美男美女に生まれると、常にこういう視線に晒されるのかとおれは初めて理解した。なんと煩わしいことか。ああ、おれは不細工な顔でよかった。

          ウルトラセブンになれなかった男

          老害退治

           何が嫌いかと言って、独善的な年寄りほど嫌いなものはない。おれも年寄りの部類だから「老害」という言葉は嫌いだが、昨今、その言葉にふさわしい年寄りが多いことも事実だ。  もちろんおれは、そんな老害ではない。自慢話はしないし、近頃の若い者はなどと文句を言ったりもしない。職業柄言葉遣いにはうるさいが、普段は極めて温厚である。  今日も散歩中に、まさに老害という言葉がぴったりのジジイに出くわした。信号待ちをしていると、自転車に乗った女子大生が信号無視をして渡ろうとした。  おれは運転

          老害退治

          まだ、しずくが残っている。

          「いや、まだだ」と私はつぶやいた。  油断大敵。焦ったために、パンツの中にオシッコを漏らしてしまう愚は、もう二度とごめんなのだ。  以前、結構多めに漏らしてしまい、「いやあ、手を洗っていてズボンに水がかかってしまったよ」という演技をすることになってしまったのである。あれは、情けなかった。  どうせ、漏らしたことはバレているのだ。漏れたなら「いやあ、小便が漏れてしまった」と正直に言うべきなのである。正直の頭に神宿る、正直は最良の豊作、英語で言えば、Honesty is the

          まだ、しずくが残っている。

          私が求めたメンタリスト

           テレビは基本的に見ないのだが、たまに付けた瞬間に興味がある内容が映っていたりして、「おお、グッドタイミングだ。これも日頃の行いがいいからだな」などと自己満足に浸ったりする。  その日もそうだった。  テレビを付けた瞬間「では、メンタリストに登場していただきましょう!」という声が聞こえ、おれはテレビに注目した。おれは、海外テレビドラマの「メンタリスト」が大好きなのだ。サイモン・ベイカーというイケメン俳優のファンなのである。 「お~い」とおれはクレオパトラ似の妻に声をかける。「

          私が求めたメンタリスト

          問題教室

           なに、なんじゃと。学級崩壊とな。それは、局地的な地震のことか。  違う? ふんふん。ほお。生徒たちが言うことをきかんわけか。私語をする。歩き回る。突拍子もない声を上げる。それは、気狂いじゃないのか。違う? ほお。昔は、気狂いと呼んだものだが。  なるほど、それで悩んでおるのか。自分に教師が向かないと。うん。向いとらんな。全然向いてない。こらこら。泣くな、このくらいで。お前、本当にわしの孫か? 情けないにもほどがある。  今時の教師は、先生とは名ばかり。実社会で大人を相手に仕

          問題教室

          執筆雑話 まずペンネームでつまずいた男

           ペンネームが問題だな。  おれは、パソコンの画面をにらみながら悩んでいた。本名で小説を書くのは何やら恥ずかしい。やはり小説家と言えばペンネームだろう。  だが、おれは昔から名前を考えるのが苦手だったのだ。  息子が生まれたときも、「縁太郎(へりたろう)」と名付けてしまった。当時、ヘリコプターの模型に凝っていたのである。 MH-60SナイトホークやCH-47Dチヌークが書斎の天井からぶら下がっていた。だが、息子のことを考えると、今は後悔しかない。  仕事でもたまにネーミングを

          執筆雑話 まずペンネームでつまずいた男

          天罰機構

          「余興じゃ余興じゃ」と博士は笑った。「研究も一区切りついたところじゃ。時間ならある」  強いライトが天井からいくつも降り注ぐテレビ局のスタジオである。薄汚れた白衣を着た博士は、司会者に向かって鷹揚に手を振った。  彼は、ボサボサの頭に手を突っ込み勢いよくかいた。フケが舞い散るが、司会者もテレビカメラもそこから目をそらす。 「しかし、本当によろしいのでしょうか」と司会者は笑顔を返した。「ノーベル物理学賞を受賞された博士に、私が冗談で言ったことを研究していただくなんて」 「だから

          天罰機構

          君は、もう用無しだ

           長い夜になりそうだった。  仕事が片付いたのが深夜の2時過ぎだ。期日に間に合ったという安堵感と、一気に仕上げることができたという高揚感で、私は少しばかり躁状態になっていた。こうなると目が冴えてしまって、眠ることは不可能だ。  こういうときは、録り溜めた海外ドラマを見るに限る。私は、海外の(特にアメリカの)馬鹿馬鹿しくて脳天気なドラマが好きで、眠れない夜のルーティンになっているのだ。  しかし、便利な時代になったものだ。  私は、HDDレコーダーのリモコンをいじりながら思った

          君は、もう用無しだ

          台車でGO!

           電話が鳴った。  ディスプレイを見ると近所に事務所を構えるインテリアデザイナーである。デザイナーのくせにセンスが悪く、仕事は投げやりで冒険もしない。予算も少ない仕事が多く、あまり付き合いたくない相手だ。  近所のよしみでたまに仕事を手伝うのだが、値切りがひどいし金払いも悪い。付き合うほどにこちらの運勢が悪くなるような気がする。 「どうした。また振り込みが遅れるのか?」 「ちがうちがう」と何やら苦しげな声である。「助けてくれ」 「金なら貸さんぞ。本も貸さん。前に貸した『ARM

          台車でGO!

          進撃の朝日新聞

           我が輩は、朝日新聞である。名前は、当然、朝日である。  朝日新聞なのに名前が山田なら、それはそれで面白いと思うのだが、さすがにそれはない。そこまで身体を張って笑いを提供するつもりはない。正確な認識名称は、朝日15926535号だ。  断っておくが、朝日新聞の記者というわけではない。実は我が輩は、朝日新聞に意識を転移させた二次元の住人なのである。なに、訳がわからない? 安心したまえ。我が輩も詳しい仕組みはわかっていないのだ。  さて、今朝のことである。この家の主人は、いつもは

          進撃の朝日新聞