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天煉の祓魔刀

 君たちは腰を落とし、観測刀の鯉口を切った。
 朧鮫革が巻かれた天正拵えの柄が、掌に吸い付くように馴染む。
 重厚で淀みがない動作。君たちは自分がなぜこのような所作を取ることができるのか疑問に思った。
 目の前には、鵺の姿。
 闇黒の中に饐えた虹色を含んだ、八間三尺の巨体。
 立ち上がった蟷螂にも、明王の骨格標本にも見える。細部は不安定に揺らめき、雑像のようにチラついていた。
 その姿に意味がないことを、君たちは知っている。
 瞬きをひとつ。
 ただそれだけで鵺は仔犬ほどの大きさになっていた。波としての性質を持つ彼らは、観測し直すたびに姿が変わる。
「――祓い、奉る」
 自分の声の意外な若さに君たちは驚いた。
 柄頭の猿手から伸びた腕貫緒が、君たちの手首の端子に接続。刀身内部に葉脈のように張り巡らされた筆薔薇神経が目覚め、重力波を発し始める。
 瞬間、鵺は八肢を躍動させ、垂直に跳躍。君たちの視界から外れて観測を途切れさせ、より強力な形態を獲得しようとしたのだろう。
 不用意な動きは時潮の乱れを生む。君たちは観測刀の重力波を放って鵺を空中に捕らえ、観測を維持。重力場の中を「落下」し、湾れ刃紋を抜き打ちに閃かせた。
 ィン――
 高次元の波長を描く刃鳴りとともに鵺の霞体を存分に斬り進み――その内部構造を隈なく詳らかにする。不定なるがゆえの脅威であるこの妖魔を、永遠に固定させる。
 苦し紛れの黒い霞が君たちを包み込み、確率の波に霧散させようとしてくる。だが君たちは割魂通によって隔てられた左右の脳。お互いを観測し合うことで存在を固定し続けた。一時的な記憶障害も解消される。
 刃を、振り抜く。
【男性。推定年齢四歳。天煉国衙領の園児服を着用】
 観測刀を通じて、鵺の核の情報が流れ込む。
 その、姿は、どう見てもだった。
「惨いことを。このような幼子に」
 君たちは、小さな亡骸を抱き留め、瞼を閉じさせた。

 僕は、何だ?

【続く】

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