見出し画像

これもまた幕末の青春の証拠

「チーム・オベリベリ/乃南アサ」を読み終えた。

ひとことで言うなら圧巻であった。私の知らない歴史がここにあった。

明治十六年、英学塾の学友だった依田勉三・鈴木銃太郎・渡辺勝の三人は北海道開拓を決意、「晩成社」を立ち上げて同志を募り、十勝の原野に入植した。彼らが選んだ地はアイヌの言葉でオベリベリ。今の帯広である。十五年で三千万坪を切り拓く予定だったが、厳しい自然やバッタの害などで開墾は遅々として進まない。女性を含めて三十名いた開拓団も脱落者が相次ぎ、どんどん減っていく。そんな開拓の最初の七年間を、鈴木の妹であり渡辺の妻である渡辺カネの目から描いたのが本書だ。カネは横浜の女学校を卒業した、当時の最先端の女性である。それが、夫に従って入植し、粗末な小屋に暮らし、子を産み、畑を耕し、豚を育て、アイヌ民族と交流し、開拓団の子どもに勉強を教える。予想もしていなかった環境に身を置くことになったのである。(紹介文より一部抜粋)

その当時、まだ未開であった十勝平野・帯広を開拓するという過酷な歴史も読み応えあるものであったが、それより渡辺カネというひとりの女性の人生としても読み応えのある作品だった。

私はカネという女性が好きだ。それゆえハラハラドキドキの連続だった。ちゃんとした教育を受け、耶蘇教(キリスト教)を信仰し、女学校を卒業したあとはその学校の教師として働いていた。その時の父の勧めによりお見合いをして結婚した相手がのちに開拓団の一員となる渡辺勝だった。そして学校を辞めて勝について帯広に渡ることとなる。帯広の何もない掘立小屋のような家で読み書きのできない農民やアイヌ民の子らに勉強を教えながら勝の妻として開拓の仕事を手伝っていた。

カネが幸せになることだけを願いながら読んだ。この人には絶対に不幸になって欲しくないと切に願いながら読んだ。今の時代ならとんでもない話だが、男は勝手で何も言わず、女はそれに抗えない。男たちに対して不満を持ちながらも何とか開拓を成功させねばと男と同じように働き、同じように苦労をする。でも女だからと意見を言うことは許されない。そんな状況に立ち向かうカネは強くてしなやかな女性だ。それは自分を助けてくれる学問と信仰があったからだと思う。口に出して言えないことは神様にに向かって心情を語る。そうやってカネは日々の生活に耐えていく。

カネが物語の終わりの方で言う言葉がある。

「私たちの代が、耐えて、耐えて、この土地の捨て石になるつもりでやっていかなければ、この土地は、そう容易(たやす)くは私たちを受け入れてはくれない」

歴史を読むというよりも、カネが何もない荒野のようなオベリベリで、妻として、母として、武士の娘として、いかに生き抜いていくか、そして何を知り何を悟り何を見つけていくか…そこが読みどころだと思う。

リアルフィクションだと言われている。帯広市民はこの晩成社の歴史は小学校で習うそうだ。でも渡辺カネを始めそのほかの女性メンバーについては語られていなかったようでとても残念。幕末の時代にこんな歴史があったなんて…この作品がきっかけで知れてよかった。667ページに及ぶ物語を読み理解するのにものすごい時間がかかった私だったが、今は静かに終止符を打った感じがして余韻に浸っている。

 きっとこれも、ある意味彼らの青春だったのかもしれないなと思う。甘酸っぱいとは言えない苦い苦い青春ではあるけれど。






この記事が参加している募集

#読書感想文

187,194件

読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。