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起きない奇跡、醒めない夢【ショートショート】

嫌味じゃないお香の香り、
程よい日当たりの窓には品の良いカーテン。
僕のために毎日メイキングされた寝具に
埋もれながら、ハッと目が覚める。

まだ外は暗い…
時計の針が差すのは  3:04
あぁ、まただ…
そろそろ朝まで眠れないものか。

靴を浅く履き、部屋の中を数歩すすむ。
毎日こんな時間に起きる自分は
いったいどんな顔をしているのか…
確認しようと壁に向かう。

『…あ、そうか。鏡外したんだった…』

何やってんだと思いながら、
のそのそとベッドへ戻り布団をかぶる。
さっきの夢の続きは、見たいような
見たくないような…

ここへ来てから毎日これだ。
こんなこといつまで続けるんだ僕は…
そう思いながらもう一度目を閉じる。

いっそ、
このまま目覚めなくても構わないのに…




毎朝決まった時間に屋敷の者が
部屋をノックして起こしてくれる。

『今起きるところだよ』

そう言って起き上がり、靴を履く。
靴の下には、僕なんかが踏みつけるには
申し訳ない高貴なカーペット。
ぼんやりしていると適温で差し出される紅茶。
慣れないお上品なお味に、すぐ目が覚める。


なにもかも ‘ ご用意 ’ されている。
それが物だけではないこともわかっている。
新しい両親は裕福だが跡取りに恵まれず、
貧しい兄弟の中で、唯一興味本位の独学で
読み書きができた僕を養子にとってくれた。

これ以上ない、素晴らしい縁だと思う。
愛情も持って受け入れてもらっているのだ。
それは、わかっている。

だけど脳と心が一致していないらしい。


目を閉じてシャワーを浴びている時には、
ワイワイと勝手にシャワーを
共有しようとしてくる兄弟の声が聴こえる。

ふと部屋の鏡を覗けば、
ピアノがあるとすぐに鍵盤に触れる弟と、  
それを取り囲む兄たちの姿が見える。

もちろん、
お湯を振り払えばそこには誰もいないし、
後ろを振り向いてもそこには誰もいない。

自分でも最初だけだろうと思ったが、
ここへ来て10日程経っても続いた。
さすがに堪えた…

効果があるかわからないが、
新しい両親にせめてものワガママを言った。


僕の部屋から
『ピアノと鏡と写真』が撤去された。


それで何か変わるかわからないが、
何もしないより少し物理的に行動を
起こした方が僕の性格には合っている。

だけどそれらが部屋から去る日、
一緒に渡せなかったモノがある。

母の形見、青い薔薇のコサージュ。

青い薔薇の花言葉は


『奇跡、夢かなう』


かなわない夢に囚われている僕は、
どうすればいい…?


今日もまた、兄弟たちの夢をみて手を伸ばし
届かないところで夜中に目を覚ます。

結局、なにか変わっただろうか…

そんななか今日、僕は新しい両親の
息子として社交界へデビューする。

やるべきことは、ちゃんとやる。

こんな僕を拾ってくれた新しい両親のため。

身支度を済ませ、まだあまりに似合わない
借りてきたようなジャケットを羽織る。
でも嫌味なくらいにサイズはピッタリ。
僕のために作られた、新しい仮面。

深呼吸をして、1階へと降りる。


『支度が整いました、よろしくお願いします。
   お義父さま、お義母さま』




~※~※~※~※~※~

今回のお話のテーマソングはこちら↓


書くきっかけとなったのがこちらの
ツイートの2枚目の写真↓


Opening…というタイトルなのに、
あえてエンドロールに聴いてほしいのが
コチラ↓


誰しも悲しい出来事には向き合う時がある。
それが生きているということ。
そこからまた始まる彼のストーリーは
何が待ち受けているのでしょうかね…✩.*˚

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