見出し画像

【ポイント解説】国連障害者権利委員会から出された総括所見について

最近、国連において日本政府の「障害者権利条約」の取り組みに対する初めての審査が行われました。そこで、障害者権利委員会からの総括所見(勧告)が出たという下記のようなニュースをご覧になった方も多いと思います。

本記事では、まったく初めての方でも理解できるように、ポイントを絞って解説しています。詳細を知りたい方は、いくつか参考サイトを紹介していますので、必要に応じて参照ください。

後半では、総括所見(勧告)のうち、情報アクセスについても取り上げていますので、興味のある方は是非ご覧ください。

障害者権利条約とは

  • 2006年に国連総会で採択

  • 条約を批准(最終的な同意)した国がすべきことを決めた国際的な約束

  • 障害のある人もない人も同じように暮らせる社会を目指している

  • 日本は国内法の整備を進めた上で、2014年に批准している

障害者権利条約について、もっと詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

障害者権利委員会とは

  • 障害者権利委員会は、18人の専門家からなる

  • 国連の機関で、年に2回ジュネーブで開催される

  • 国連加盟国が提出した障害者権利条約の遵守に関する報告書を検討し、改善ポイントなどを勧告する

障害者権利委員会について、もっと詳しく知りたい方は以下をご覧ください。

2022年8月22日・23日に障害者権利委員会がジュネーブで実施した日本政府に対する障害者権利条約の実施状況についての建設的対話(審査)を踏まえ、9月9日に障害者権利委員会から総括所見が出されました。

詳しい様子は下記のサイトにてレポートが出ています。アーカイブもありますが、残念ながら、日本手話通訳や日本語の字幕はついていませんでした。次回以降の改善課題としたいです。

建設的対話(審査)とは

障害者権利委員会による審査の前に、政府・民間団体は、下記の資料を提出することになっています。

政府は条文と照らし合わせた政策の実行についての「報告書」、民間団体は実際の「課題」や「改善点」をまとめた「パラレルレポート」をそれぞれ提出します。

審査では、これらの資料をもとに権利委員会の専門家が政府に質問し、政府が回答を行います。

審査の詳細は以下のオンラインミニ講座(手話・字幕付)をご覧ください。

政府が提出した報告書は以下をご覧ください。

国内の主要な全国レベルの障害者団体と関係団体などが連携して設立されたJDF(日本障害フォーラム)(加盟団体は、日本身体障害者団体連合会日本視覚障害者団体連合全日本ろうあ連盟日本障害者協議会DPI日本会議など13団体)が提出したパラレルレポートは下記をご覧ください。

日弁連(日本弁護士連合会)が提出したパラレルレポートは下記をご覧ください。

ロビイングとは

障害者権利条約の日本審査において、日本政府に対する事前質問事項を決める段階で、当事者団体による権利委員への働きかけ(=ロビイング)が行われています。ロビイングは非公開で行われています。ロビイングの様子は下記をご覧ください。

情報アクセスに関する勧告

9月9日に国連障害者権利委員会から出された総括所見(勧告)のうち、情報アクセスに関するものは下記の通りです。仮訳のため必要に応じて、原文を参照ください。

21条に関しては、日本手話の公用語を法律で認めること(手話言語法)や、手話の普及と手話通訳の養成・拡大を求めています。

● 表現と意見の自由、情報へのアクセス(21条)
45. 懸念事項
(a) 盲ろう者など、より手厚い支援を必要とする人を含む、すべての障害者の情報提供やコミュニケーション支援に欠ける。
(b) テレビ番組やウェブサイトを含む公共情報およびコミュニケーションへのアクセスを得る上で障害者が直面する障害、および地方自治体間の格差。(c) 日本の手話が公用語として法律で認められていないこと、手話の教育が行われていないこと、生活のあらゆる場面で手話通訳が行われていないこと。

障害者権利条約対日審査の総括所見の仮訳(国連障害者権利委員会Webサイトを参照)

46. 勧告事項
(a) ウェブサイト、テレビ、メディアサービスなど、公衆に提供される情報のアクセシビリティを確保するため、あらゆるレベルで法的拘束力のある情報通信基準を策定する。
(b) 点字、盲ろう者用通訳、手話、イージーリード、平易な言葉、音声記述、ビデオ転写、字幕、触覚、補強、代替手段など、利用しやすいコミュニケーション形式の開発、促進、利用のために十分な資金を割り当てる。
(c)日本手話を国レベルの公用語として 法律で認め、生活のあらゆる場面で手話へのアクセスとその使用を促進し、有能な手話通訳者の訓練と利用可能性を確保すること。

障害者権利条約対日審査の総括所見の仮訳(国連障害者権利委員会Webサイトを参照)

24条に関しては、障害児が通常学校・学級へ入りたい意志がある場合は拒否しないことを勧告しています。ここで、注意すべきなのは、既存の特別支援学校・学級の存在を否定しているわけではないことです。また、合理的配慮として、コミュニケーション手段や言語(手話)の環境をしっかりと整備することを勧告しています。

障害者権利委員会は、原則として【フルインクルージョン】(どのような障害や多様性があってもすべての子どもに通常学校で教育を提供する)を目標として掲げている。その一方で、自らの言語(手話)で教育を受ける権利を確立しなければならないとしている。詳細は、インクルーシブ教育を受ける権利に関する一般的意見第4号(2016年)を参照ください。

障害児が、どのような形態(通常学校・学級、特別支援学校・学級)で教育を受けるかを決める場合、以下の点が主な考慮ポイントとなります。

・障害児本人の希望
・障害児の状況・適性・適応能力(障害の程度、使用言語など)
・合理的配慮の現状(教員の受け入れ態勢、受け入れ経験の有無など)
・合理的配慮の展望(対応要望により、受け入れ可能になるかどうか)

障害児は多様性があるため、あらゆるケースを想定し、選択肢が多いことが望ましいです。つまり、通常学校・学級、特別支援学校・学級のいずれも選択肢としてあることが望ましいです。

●教育(第24条)
51. 懸念事項
(a) 障害のある子どもたちの分離された特別教育の存続。医療に基づく評価により、障害のある子どもたち、特に知的または心理社会的障害のある子どもたちやより集中的な支援を必要とする子どもたちにとって、通常の環境での教育はアクセスしにくいものになっており、通常の学校における特別支援教育クラスの存在も同様である。
(b) 障害児を普通学校に入学させる準備が整っていないとの認識と事実による入学拒否、2022年に出された特別学級の児童生徒が在学時間の半分以上を普通学級で過ごさないようにするとの大臣通達がある。
(c) 障害を持つ学生に対する合理的配慮の提供が不十分である。
(d)通常教育の教師のスキル不足とインクルーシブ教育に対する否定的な態度。
(e) ろう児のための手話教育、盲ろう児のためのインクルーシブ教育など、通常の学校における代替・補強手段やコミュニケーション・情報の欠如。
(f) 大学入試や学習過程など、高等教育における障害のある学生の障壁に対処する、国の包括的な政策の欠如。

障害者権利条約対日審査の総括所見の仮訳(国連障害者権利委員会Webサイトを参照)

52.勧告事項
(a)隔離特別教育に終止符を打つ目的で、国家的教育政策、法律および行政上の取決めにおいてインクルーシブ教育に対する障害児の権利を承認するとともに、すべての障害学生に対し、当該学生が必要とする合理的配慮および個別的支援があらゆる教育段階で提供されることを確保するため、具体的な達成目標、時間枠および十分な予算をともなった、良質なインクルーシブ教育に関する国家的行動計画を採択すること。
(b)すべての障害児が通常学校にアクセスできることを確保するとともに、通常学校が障害のある児童生徒に対して通常学校を拒否することができないよう「受入れ拒否禁止」の条項および方針を整備し、かつ、特別学級に関連する省通知を撤回すること。
(c)すべての障害児に対し、個別の教育上の必要を満たしかつインクルーシブ教育を確保するための合理的配慮を保証すること。
(d)通常教育の教員および教員以外の教育職員がインクルーシブ教育に関する研修を受けることを確保し、かつ、障害の人権モデルに関するこれらの教職員の意識啓発を図ること。
(e)通常教育現場における代替的・拡張的なコミュニケーション・情報伝達の態様および手段(点字、イージーリード、ろうの子どもを対象とする手話教育を含む)の使用を保証し、インクルーシブな教育環境におけるろう文化および盲ろうの子どもによるインクルーシブ教育へのアクセスを促進すること。

障害者権利条約対日審査の総括所見の仮訳(国連障害者権利委員会Webサイトを参照)

原文はこちらを参照ください。

下記は、全日本ろうあ連盟の「障害者の権利条約」関連情報サイトです。障害者権利条約に関する流れやロビイングについての詳細がまとまっていますので、関心のある方は、是非ともご覧ください。

JDFなどの関係者団体においては、長年にわたって情報アクセス・コミュニケーション環境の改善に尽力され、今回の勧告につながりました。今までの関係者の精力的な活動に深い敬意を表します。

今回を機会に、言語としての手話が普及し、情報アクセシビリティ・コミュニケーションの権利保障がさらに充実することを心から願っています。


この記事が参加している募集

多様性を考える

SDGsへの向き合い方

あらゆる人が楽しくコミュニケーションできる世の中となりますように!