【論文読了】ロボットやAIの進化がもたらす人間と機械の新しい関係
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの2023年7月号の特集は、「ロボットやAIの進化がもたらす人間と機械の新しい関係」でした。
ChatGPTを皮切りにAIが一気に身近になったと感じます。いよいよAIが驚異的な力を付けてきました。
そんなご時世において、ロボットやAIとどう向き合えばいいのかというと、私としては活用すればいいという考えです。メディア的には注目を浴びるために人間対AIの構図に持っていくようですけどね。
今回のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューも、ロボットやAIを活用するという方向で解説しています。
製造現場は人とロボットの協働で進化する
この論文ではロボットの導入を生産性とプロセスの2つの面で捉えています。
ロボットを導入して自動化することで生産性を上げようとしても、ロボットのプログラムの修正やメンテナンスというプロセス面で大きなコストがかかるというのです。
ロボットだって当然メンテナンスしなければ動きが悪くなり、いつかは故障してしまうでしょう。
また生産プロセスを変更したり、新しい製品を開発したりすれば、ロボットのプログラムを修正し、テストを行わなければいけません。今時は機械学習を採用しているとしても、作るものや作り方に応じた学習が必要なはずです。
一般的には人とロボットとでどちらが安いかで考えられてしまうと思いますが、実は運用や変更に応じた改修というコストが大きくかかるのです。
このように自動化のコストがプロセス面のコストで相殺されてしまう自動化を本稿ではゼロサム・オートメーションと呼んでいます。
よってプラスサムになるオートメーション、すなわち本書でいうポジティブサム・オートメーションにする必要があります。
ポジティブサム・オートメーションを実現する上で、気になる点をいくつかピックアップしてみました。
外部の技術コンサルに設計・構成を任せて硬直的なシステムを作るのではなく、理解しやすいテクノロジーで自動化システムを構成する。
現場の従業員が作業を組んで指示を出せる形で自動化する。
1人の従業員が複数台のロボットをアシスタントとして使うことで、生産性を高める。
興味本位とか他社もやっているという理由でロボットを導入しない。
自動化したシステムには継続的なプロセスの改善が必要。
興味本位とか他社もやっているという理由で導入するのは論外ですね。典型的な上手く行かないパターンです。DXでこういうパターンが増えていそうですが。
ちなみに私は他社もやっているからという理由は論外という記事を書いています。
ニューロテクノロジーを職場でどう活用するか
人間の脳の解析は進んでいるのですが、いよいよ脳波データを分析するニューロテックデバイスが広まり始めているようです。本稿を読むと、活用の幅は意外と広いことが解ります。
ニューロテックデバイスとはドライ電極を使って人間の脳とコンピュータをつなぐデバイスです。人間の脳波を分析してデータ化すれば、様々なアルゴリズムで応用が可能になるわけですね。
ニューロテックデバイスを何に使うかというと、従業員のコンディション管理に使えるようです。
例えば睡魔を検知して、休憩を取らせるなどです。機械や乗り物を扱う仕事では事故防止に役立ちます。
疲労による集中力や注意力の低下を検知して休憩を取らせると、想像力などが高まって、成果物の質が高まるという調査もあるようです。
一方で疲労により注意力が落ちてきた従業員を叱責している企業もあるようです。これは逆効果でしょう。根性論でパフォーマンスを維持することはできませんし、従業員からしたら信用されていないので、モチベーションも下がります。
しかしデバイスが進化して色々把握できるようになると、何でもかんでもデータを集めたら、プライバシーに関わってしまいます。本稿では業務時間外のニューラルデータを収集すべきでないとしています。法制度の整備もこれからされていくでしょう。
デジタルヒューマンの「雇用」が企業と顧客の関係性を変える
AIで動いているキャラクターと言えば、AIさくらさんがいます。
しかしこの論文でデジタルヒューマンと呼んでいるのは、CGでできたリアルな人間風のAIキャラクターなのです。
アパレルなどは従来だったらモデルを使ってイメージを売り込んでいました。しかし先進的な企業は架空の人物をCGで作り、この人物のSNSアカウントを作り、服をコーディネートしてイメージを伝えたCGを作って発信するというのです。
当然ながら「デジタルヒューマン凄そう!」と思って導入すればいいのではありません。自社に適しているかどうかが大事なのです。どんな製品や技術もフィット&ギャップをしっかりやらなければいけません。
本稿にはちゃんとデジタルヒューマンの導入が自社に適しているかどうかを判定するフローチャートが付いています。これを見て判断できます。
調査によると、ゆるキャラやアニメキャラよりもリアルな人風のキャの方が親しみやすいようです。リアルな人風のキャラの方が顧客に親近感や信頼感を感じてもらいやすいそうです。
個人的にはこりゃまた面白いものが出てきたなと思います。数年したら意外と増えているかもしれませんね。
AIの進化が人間理解を促し、新たな事業機会を生み出す
コンピュータの性能アップと大規模言語モデルにより、AIが大きく進化したのが近年です。そこには自己注意機構という仕組みの登場もあるようです。
認識と言葉はAIでできるようになってきましたが、難しいのは行動だそうです。確かに生成系AIとかチャットAIは増えてきたけど、動くロボットはそんなに見かけないですね。代表的なところだと配膳ロボットかな。
質問や相談もAIができるようになってきた今、人間はどこに価値を見出していくのかが問題です。しかし本稿ではナンセンスとしています。
ChatGPTなどのように最近大きく進化している大規模言語モデルは、プロンプトつまり人間の指示が必要です。上司が部下に指示するようにAIを使うことが大事です。人間対AIというSFのような構図ではなく、AIを活用するという視点が大事ですね。
また本稿では、AIの進化によって人間や組織の行動を、経済学や経営学で示されている行動モデルではなく、より精緻に理解する必要があると説いています。人類そのものを理解する学問が盛んになるというのです。
思考というアルゴリズムがあることも、動いてもらうためには具体的な指示が必要なことも人間と変わりません。そういう意味ではAIが進化していくうちに人間とAIの境界線がだんだん曖昧になっていくのかもしれませんね。
自在化身体論:人と機械の新たな関係性を構築する
東大では本当に幽体離脱や分身、合体の研究をしているそうです。文化的に分析するんじゃなくて、科学的に実現することを研究しているというのです。
幽体離脱は遠く離れたものを自分の体のように操作できれば、実現可能なようです。遠くにある機会とかキャラクターが自分の体のように動けば、まるで自分が乗り移ったかのように感じるというわけですね。
これを実現するには、人間の体の動きをセンサーなどで測定し、リアルタイムで操作対象に送って操作対象に同様の動きをさせる必要があります。
分身はスポーツのゲームがいい例です。ボールに近い選手に自動的に切り替わったり、コントローラーのボタンを押すと操作する選手が変わったりすれば、自分の意思で複数人が動いていることになります。
複数の人を使って自分の思い通りに動かせていれば、あたかも自分が色々な複数の人になり切っているように感じられます。選手が切り替わる機能はファミコン時代から既にあったと思います。
それでは合体はどうでしょう?まるで戦隊ものですよね。これは複数の人が1つの機械や道具を動かせば実現できるようです。
例えば機械の腕をAさんとBさんの二人で動かすことを考えてみましょう。Aさんが上に動かし、Bさんが下に動かすと、機械の腕は中間で止まるでしょう。AさんもBさんも上に動かそうとすれば、機械の腕は上に上がるでしょう。
合体を使って複数人で協力するとメリットもあるようです。Aさんの体に装着したロボットをBさんが操作するという実験では、二人の親密度が増すということが解ったそうです。つまり複数人での共同作業に親密度を上げる効果があるというわけです。
複数人で同じことをするという行為は意外と日常にあるようです。例えば綱引きや祭りの神輿、結婚式でのケーキ入刀がいい例です。そういえば一緒に祭りで楽しめば、知らない人でも親近感とか仲間のような感覚が湧いてくると感じます。
更には他人になり切るという方法を教育に活かす研究もあるようです。技を見て学ぶ機会は世の中に多くありますが、VRを使って、なおかつ上記の技術を応用すれば、力加減も再現できるようです。
すると見て学ぶのと比べると、動作だけでなく力加減も学ぶことができて、上達が速くなるそうです。熟練職人の技などは力加減の調整もすごいでしょうし。
幽体離脱、分身、合体なんていうと創作の世界だけに感じますが、技術的に実現するとメリットがちゃんとあるのです。こういうのもSFから得られた発想なのかもしれませんね。
終わりに
今回はロボットやAIがテーマでしたが、どの特集論文・インタビューも特徴がありました。
個人的に一番衝撃的だったのが幽体離脱や分身、合体です。しかしオートメーションのような昔からありそうで上手くいっていない事例も見逃せないと思います。
AIが普及してきた今だからこそ、ロボットやAIの活用に悩んでいる方は是非今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューを読んでみてはいかがでしょうか?
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