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山道を歩く

久しぶりに高尾山に登ろう、と思った。

高尾山の山頂へ行くには、ケーブルカーに乗り、舗装された道を歩いて、短時間でラクに行ける方法もある。

恋人や家族と、クラスメイトや友人たちと、

「え~、キツイ~!まだ歩くの~」

などと言いつつ、おしゃべりしながら、写真を撮りながら、楽しそうに山頂を目指す人たちもたくさんいる。

けれども私は、ケーブルカーにも乗らず、舗装されてもいない登山道を選んだ。その方が「山に登っている」という感じがして好きだからだ。ひとりで黙々と、でこぼこの山道を歩いて山頂を目指す。

高尾山の登山道6号路。沢沿いの谷間を歩く。

こうしてひとりで黙々と、でこぼこの山道を歩くという選択そのものが、私の生き方なのだと、今さらながら気づいた。

お金をかけて乗り物に乗ったり、人の手が施されて整えられた道を行けば、
もっとラクに生きられるかもしれないのに、そういうことができないのである。

でこぼこの山道を自分の足で歩いてたどり着いた山頂からは、まるでCGのように美しく浮かび上がる富士山が見える。

高尾山の山頂から見た富士山。今年の初冠雪の直後だった。

富士山を眺めながらおにぎりを食べ、記念写真を撮る人たちを眺める。

そして再び、ひとりで黙々と、でこぼこの山道を下っていく。

高尾山の登山道4号路。広葉樹の森が続く。

木々の巨大さに圧倒されながら、葉っぱの間から見える青空をあおぎながら、私は黙々と歩く。

声を出すのは、ゆっくり歩いている人たちを追い越すときに「先に行きますね~」と、あいさつするときくらいである。

そうやって登山道を下りきったところに、ちょうど茶屋がある。そこで飲むビールが、格別なのである。

登山道を下りきったところにある茶屋で飲むビールが最高!

「ぷは~っ!」

ビールのジョッキを片手に、ビルが建ち並ぶ遠くの街を見渡す。

見渡しながら、こう思う。

本当に私がやりたかったことは、山頂で富士山を眺めることではなく、でこぼこの山道を歩くことではなかったのか。

黙々と、ひとりで、何も考えずに、ただ歩く。

山頂というゴールを目指しているけれど、ゴールだけが目的じゃない。

ゴールへ向かう、途中の山道。でこぼこで、舗装されていない山道。その山道を歩くことを、楽しんでいる自分がいる。

それが、私なのだと思う。

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