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1on1導入を考えている企業へ、『ヤフーの1on1』本間浩輔からの提言

こんにちは、bizlogueです。

ヤフーに1on1が導入されてからおよそ10年。当時、人事の責任者として大きな役割を果たしたbizlogueのメンバーであり『ヤフーの1on1』『1on1ミーティング』の著者である本間浩輔は、現在の1on1とビジネス界全体の状況をどのように思っているのか。

本間が提言する、これからのビジネスにおいて大事な一つのキーワードは「正直者がバカを見ない」仕組みを作ること

同じくbizlogueのメンバーであり『1on1ミーティング』の共著者である吉澤幸太と1on1を導入した10年前のヤフーの変革を振り返りながら、今後のビジネス界に必要なことについて意見を出し合いました。


「正直者がバカを見るようにすると失敗しますよ」

吉澤 9月に始まった『慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)』の講座『実践「1on1」の本質』の感想の続きになりますが、1on1が世の中に随分と普及してきましたねという中で、ヤフーは気が付けば導入から10年が経ち、今はもう当たり前のように社内で1on1をやっています。本間さんはこれについてどう思っていますか? 今の位置から見えるかどうかはともかくとして。

本間 うん、まあ、僕よりも吉澤さんの方が現場に近いですからね。ただ、1on1だけでは上手く行かないという話になりますよね。僕は最近よく「正直者がバカを見るようにすると失敗しますよ」と言っているんです。

吉澤 はい、そのフレーズはよく言っていますね。

本間 このことについて事例を出すと、パンデミックの時の飲食業って例えば東京都のお願いを受けて、たいしたお金も入らないのに営業を止めて一生懸命感染を防ごうとしたお店がある一方で、感覚的な問題ですけど、2階とか3階とかの奥まったお店では関係なしに通常通りに営業して、飲みたい人たちがお店に来るから儲かっている。そんな話を聞いたことがあるんですよね。これはやっぱり「正直者がバカを見る」と言いますか……

吉澤 そうですよねぇ。

本間 じゃあ、誰がどうすればいいのかという問題はありますし、そう軽々にものは言えないのですが、やっぱり世の中で仕組みを稼働させていくには「正直者がバカを見ない」仕組みというものがすごく重要だなと思うんです。

吉澤 はい、そうだと思います。

1on1とともに打ち出した施策「管理職の定義を変える」

本間 こないだ誰かに教えてもらったことなんですが、ヤフーの人事の責任者だった時に100近くの新しい施策を繰り出したけれど、残っているのは5つくらいしかない、と。それでほかの95はなんだったのかという話がある中、あの10年前に1on1と一緒に僕たちが打ち出した施策というのは「管理職の定義を変える」ということでしたよね。

吉澤 そうですね。ハッキリとそのように言いましたからね。

本間 あれはどちらかというと、当時の社長だった宮坂(学)さんの後押しと言いますか、後ろで彼がケツを持ってくれたということもありますが、これまでの管理職は自分の成果を上げるために部下を手段として使っていたということがあったかもしれない。でも、これからの管理職の仕事というのは管理職の皆さんが成果を上げるというよりも、部下が活躍すること――これを僕たちは「才能と情熱を解き放つ」という言葉で表現したのですが、部下の才能と情熱を解き放つことが管理職の仕事である、と。

吉澤 活躍する舞台を整えることが管理職の仕事だ、と宮坂さんはおっしゃっていましたよね。

本間 ええ。僕らはそれを受けて、管理職の更迭も含めてやりましたよね。それまではおそらく更迭みたいなことはほぼゼロだった会社が、相当の数の管理職の人たちに役割を変わってもらい、部下の才能と情熱を解き放つことができる管理職を選び、そして部下の才能と情熱を解き放つことができる管理職を評価するようになったわけです。だから、それがあって、じゃあ管理職の彼らが部下のことを知るために、あるいは部下のモチベーションの源泉を知るため、またはやる気スイッチかもしれないし、どんなところで頑張りたいのかを知る一つの方法として1on1があったわけです。なので、1on1が全てではないですけど、その要素が強くあったからこそヤフーでは上手くいったのだと思います。これについて他の企業さんではどうなっているのか分からないのですが、少なくともヤフーでは単純に部下を踏み台にして成果を上げる管理職よりも、若干KPIを達成することができなくてもちゃんと部下を育て、再現性高く成果を上げるような組織を作る管理職を育てようとしましたし、そういう管理職を評価しようとしてきたんだと思いますね。

吉澤 簡単に言うと評価軸を変えた、完全に役割を分けたということですよね。今までプレーヤーとして優秀だった人たちに「今度はチームを率いてくれ」と言ってリーダーや部長をやってもらうという世界観を変えたということですし、そこで仕事する人というのはもっとハッキリ言うとそれぞれスペックが違うので、プレーヤーとしてはそこそこの成果だったかもしれないけれど、もう役割が変わって……ただ上とか下とかじゃない感じになりましたよね、あの当時は。

本間 そうですね。なので今、色々な企業で1on1を導入していることについて僕たちが何か言うことでもないですし、僕たちはベンダーさんでもないわけですからワーワーと言う立場でもない。でも、言っておかないといけないなと思うのは、やはり1on1を導入する横で“管理職に求めるもの”をちゃんとすべきです。部下を育てなくても結果的にKPIが上がるから良いのではなく、もっと言えば部下を踏み台にしてと言いますか、部下に無用なストレスを与えたり、部下が手段になってでも自分の成果を上げたり、「コレオレ詐欺」で手柄を取りまくるような上長を偉い立場にしない。それは良くないよとフィードバックしてほしいし、そういうことをもっと上の上長が正しく見ているという仕組みを作ってほしいと思いますね。

吉澤 そうそう、もう一つ上がないと単に板挟みになってしまいますからね。

単純に成果を上げる人を評価するだけでは限界がある

本間 結構聞くんですよね。言っていることは分かるけれど、「わが社でそれは難しいなぁ」とおっしゃる方がいて……

吉澤 あぁ、そのセリフは聞きますねぇ。

本間 もちろん、ヤフーぐらいまで思いっきり振らなくてもいいとは思いますけど、でもやっぱり「正直者がバカを見ない」仕組みを作る。それをやっていかないと、これからどんどん組織が複雑化して競争が激化する中、単純に成果を上げる人を評価するだけでは限界があるような組織もある。そんな気がしますね。

吉澤 “成果”という言葉が何を指すのかにもよるのかなぁとも思いますね。プレーイングマネージャーという言葉を私は好きではなくてあまり使わないのですが、何かごまかしているような気がしていて、本当は役目が違いますし、僕は何についてどうしたら評価されるのかという握りが甘いと思っているんです。そうしないとメンバーとリーダーが同じものを追いかけたりしている場合もある。そうすると、本間さんが言うように部下とリーダーが競争しちゃうということも起きるでしょうし、今度は部下を育てる・部下のメンテナンスというところに一生懸命になっていると結局、そういったリーダーからよく相談を受けるんですよ。「自分が何のためにどう役立っているのか分かりません」と。「上に聞いたら『良い調子だよ』と言うし、メンバーと話すと『○○さん(上長)とは働きやすいです』とか言われる。だけど、自分はいったいどういう価値があるんだろう?」という、悶々とした中間管理職の話を聞くこともあります。そこで「いやいや、そんなことないですよ」ということを僕が言うのではなくて、その組織の中でお互いに言うことができたら本当に素晴らしいと思います。でも、まだそこに全然手が届いていないから、これは伸びしろだなぁと思っていますね。

本間 このテーマについては僕よりも吉澤さんの方が非常に考えてくれているので、また今度色々と話ができればと思いますが、やっぱり僕らが向き合わなければいけないテーマは、先進国だったか、あるいはどういうカテゴリーだったかは記憶にはないのですが、日本だけ給料が上がっていないわけですよね。

吉澤 はい、その通りです。

本間 それは経営の問題だけじゃなくて色々な問題が重なっている結果だと思いますが、短期的なKPIを上げる人をすごく評価して、そうではない組織力みたいなところにあまり目を向けなかった企業が多かった結果、それが全てとは言わないですけれど、平均値にしてみると日本人の給料はむしろ下がっている。そして、一部の賢い人の給料がどんどん上がり、そうではない人が下がっている。これが本当に成熟した幸せな国なんだろうか、ということを僕たちも含めて考えなければいけないことで、そういう組織論で良いのだろうか。もちろん、すべての企業がとは言いませんけれど、ちょっとでも考えた方がいいのではないかなと思いますね。

吉澤 このテーマについてはもっと本間さんの話を聞きたいですね。僕たちのここまでの反省も含めてね、成し遂げられなかったこともありますから。と言って、もう遅いというわけでもないですし、これからもっとやっていけるかもしれないので色々な人の意見を聞きたいなと思っています。今回のテーマに関して、読者の方で何か感じること、思うことがありましたら、ぜひコメントをいただければと思います。ありがとうございました。


bizlogueではYouTubeでも情報発信を行なっています。

■ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
(著・本間浩輔)

■1on1ミーティング―――「対話の質」が組織の強さを決める
(著・本間浩輔、吉澤幸太)

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