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なぜ1on1を定着させることができたのか―人事が振り返る導入からの11年

こんにちは、bizlogueです。

bizlogueのメンバーであり『ヤフーの1on1』『1on1ミーティング』の著者である本間浩輔、吉澤幸太が講師を務め『慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)』の講座『実践「1on1」の本質』が9月から開講しました。

今年で4年目を迎えた本講座では、毎回のセッションの終了後に本間、吉澤がその日の内容を振り返る動画「編集後記」を受講者向けに配信し、1on1や対話、人事、経営などに関して、ざっくばらんに意見を交換しています。

このnoteでは9月26日に行われた第5回目のセッション後に配信された「編集後記」を記事化してお届けします。


「1on1をやるぞ!」となった時、現場はどう受け止めた?

吉澤 2分前に本間さんが帰ってしまいましたので、今回はティーチングアシスタント(TA)を加えた3人でやっていきましょう。今回の講座は「1on1の導入事例を人事の視点で考える」、こういうタイトルで実施しましたが、中身はそれ以上に濃かったですね。私たちが会社に1on1を導入したのが2012年、今から11年前です。その時に中村さんは現場と言いますか、人事ではなかったですし、宮田さんも人事ではなかったですよね。

宮田 はい、そうです。当時は営業、企画的な感じの仕事をしていましたね。

吉澤 本間さんや社長だった宮坂学さんが「ヤフーで1on1をやるぞ」と言った時、それぞれエンジニア、営業・企画として現場ではどのように受け止めていましたか?

宮田 その当時は1on1だけじゃなくて経営体制が変わって、色々なものが変わりましたよね。人事のメッセージがバン!と出て、結構いかつい感じのマネージャーが急にいなくなったりだとか、人財開発会議、人財開発カルテ、ジョブチェンジの異動制度とか、新しいものがバン、バン、バンと出た中の1つに1on1があって、人事がこれをやるぞと言っている。それで「週に1回30分は話すのか、なるほど……これはなんだ?」という(笑)、まずはそんな受け止めでしたね。たくさん新しいものが出てきた中での1個、という感じでした。

吉澤 そうですよね。1on1って巷で有名になっちゃって、『ヤフーの1on1』なんていう本も出ちゃったものだから、ヤフー=1on1みたいな形で1on1だけが目立ってしまっていますけど、当時の我々にとっては目立った存在というよりも、あまりにもいろいろなものがガラガラポンになっちゃったものだから、その中の1つに過ぎなかったですよね。

宮田 そうですよね。「なんか1on1というものもあるらしい、なんだこれは?」みたいな感じで、急にコーチング研修に呼ばれたりもしましたね。

吉澤 1on1とは何ぞやという説明すらもなかったですよね……あ、そう言えば、僕も当時は現場でした。そうでした、僕もその頃はまだサービス企画職でした。では、中村さんはどうですか?

中村 ヤフーが1on1を導入したタイミングと同時に僕はマネージャーになって、管理職の入れ替えみたいな形で抜擢された側でしたので、そもそも上司として、マネージャーとして何をすればいいのかも分からないような状態でした。それで、いろいろな制度が出てくる中で1on1もやれということで戸惑った部分もあったのですけど、逆に自分にはこれまで上司とかマネージャーの経験が何もなかったからこそ、受け入れやすかった部分もあったのかなと今振り返ると思いますね。

吉澤 ああ、そういうケースもあったんですね。なにせヤフーとしても初めてのことでしたからね。

中村 はい。今まで自分が見ていた上司像とは違うものなんだと、当時思っていました。

今だから話せる1on1導入時の失敗談

吉澤 自分が実際にその立場になってみてガラガラっと変わったわけですね。

中村 そうですね。真っ白な状態から1on1を導入していったので、今振り返るとすごい失敗を繰り返しつつ、部下のことを思うとダメだったなということもあったのですが……

吉澤 そのダメだったエピソードで今だから言えることって、何かありますか?

中村 分かりやすい事で言いますと、当時、研修みたいな形でコーチングを学んだのですが、せっかく学んだのだし、この学んだスキルを使ってやろうと(苦笑)。それで、部下に何も説明せずに急に質問し始めるみたいなことをやった結果、部下はキョトンとして、「何を言っているんだ?」みたいなことがありました。やっぱり当時、部下は上司に何か教えてほしいとか、そういう姿勢で1on1に臨んでいたフシがあって、そこにいくら質問したところで上手くはいかないので、そこに気づいた時に「この場はそうではなくて、ちゃんとあなたに考えてほしいから質問しているんだよ」と、そういうことをちゃんと説明してから1on1をやり始めたらもう少し前進したと言いますか、上手く行き始めたような思い出がありますね。

吉澤 そうか、1on1の意図を正直に説明したら上手く動き出したということですね。

中村 そうですね。あと、教える時間はそれとしてちゃんと取って……

吉澤 1on1とはまた別に教える時間を?

中村 はい、そこはちゃんと切り分けて意識して取り組んだことも、失敗から学んだことで大きなことだったかなと思います。

吉澤 それはある意味、上司と部下の新たな関係が作られていくことの1つですよね、1on1のテクニックというよりも。

中村 そうですね。

吉澤 では、宮田さんは実際に1on1をやってみてどうでしたか?

宮田 覚えていることとして今、2つくらい思い出したのですが、1つはサーベイもされたじゃないですか。私たちの点数が部下から出るんですよね。それがすごいドキドキするんですよ。当時はこういうことって、あんまりなかったんですかね? 明確に上司、マネージメントとしての点数が出るということってあまりなくて、すごくドキドキしましたけど、それによって多少ホッとすることもあったと言いますか、「あ、これはちゃんと部下に伝わっているんだ」と確認することができたということを覚えていますね。

あと、当時教えてもらったことの中に、部下への50の質問だったか100の質問だったか、何かそういう「部下にこういうことを聞いて、それに対しあなたは上司として答えられますか」みたいな質問集のようなものがあったんです。要は部下のこれについて知っていますかという枠組みがいくつかあって、それをすごく参考にしながら「私はこの人のこの部分を知らないな」ということを助けにしてやっていたなというのを思い出しました。

人事の視点から見えた、1on1だけでは解決できない様々な苦悩

吉澤 そうやって、気がついたら人事の人になっていたわけですからね。1on1導入から数年後、あるいは数カ月後の場合もあるかもしれないですが、人事側に来て、見え方や考え方は変わりましたか?

中村 僕は人事になる前にも結構、“現場の1on1上手い人”みたいな感じでトレーニングのTAをやらせてもらったり、シャドーエクササイズをさせてもらったりとかが多かったので、そこを比較すると立場が人事に変わっても、そんなに変わらなかったと思います。でもやっぱり、現場との距離がちょっと遠くなったということが大きなことで、幅広くいろいろな情報が入ってくるようにはなりましたけど、より深く一人ひとりを育成するようなことは少し難しくなってしまったなと、バランスがいろいろと難しいなと思っていましたね。

吉澤 そうですね、立ち位置が変わって、できることが変わるというのは当然ですけど、人事に移ってそんな印象を持っていたんですね。宮田さんはどうですか?

宮田 自分自身はマネジメントとして1on1を割とすんなり受け入れた方と言いますか、「じゃあ、研修を受けろ」と言われたら「ハイ」とやっていた方だったとは思うんですけど、そうじゃない人がたくさんいたということを知ったことが……(笑)

吉澤 そうですね。皆さんが「ハイ」と素直に聞いてくれるわけじゃない…(笑)

宮田 ですから、人事側に来て1on1の研修講師をやったりしても、吉澤さんもいっしょにその場にいたと思いますが、「1on1をやったら売上はいくら上がるんですか?」みたいな問いを研修の場で受けたりもしましたよね。あとは、1on1を上司の人たちに対してすることも結構あったじゃないですか。社内コーチとして新任のマネージャーの壁打ち相手になったり、マネジメントがあまり上手ではない人の壁打ち相手とかをやったりもしていたので、そうすると1on1を通してマネジメント全体の課題と言いますか、1on1だけでは解決できない後ろ側にある色々なマネジメントの苦悩みたいなところがすごく見えるようになったなというのが、人事になってみての感想ですね。

吉澤 本当、そうですよね。宮田さんが今おっしゃった通り、研修って皆さんがイメージする研修ではないんですよね。“1on1をテーマにした対話会”みたいな場になっていて、「いや、僕はそもそも1on1反対派なんですよね」という人もそこに座っている(笑)。そんなところから始まって、人事と反対者との対話を他の研修参加者みんなが見ていて、「人事は何を言うんだろう?」と注目している中で、反対者と対峙するみたいな形でしたよね。そこで人事がいいかげんなことを言っちゃうと信頼を失いますし、とはいえ別に僕たちも反対者と勝負しているわけではありません。ですから、実際に現場はどうなっているの?と聴いていくことになり、すると当然1on1以外の部分で、会社でいったい何が起きているんだということを私たち人事が知る機会になるし、その場に居合わせた人たちとで共有することにもなった。そんな対話が社内のあっちこっちで生じていき、それらが徐々に功を奏していったんじゃないかなと今振り返ると思いますね。

中村 リアルな現場の上司と部下の1on1にオブザーブしに行ったことがありまして、リアルな1on1に陪席して、部下が引き上げたところで辛辣なフィードバックをするという経験をいっぱいしたのですが、あれを思い出すと、経験としてすごく大きかったなと思いますね。

吉澤 実際の1on1を横で見るというやつですよね。

中村 はい、そうですね。

吉澤 だから、考えてみたら、これまでいろんなことをやってきましたよね。

宮田 試行錯誤でしたよね(笑)

良い1on1を経験した機会こそが重要

吉澤 はい。あれこれありつつ、結局ヤフーの中では1on1が定着したじゃないですか。お二人はもうヤフーを卒業していますが、1on1が定着したのは何が肝だったと考えていますか?

中村 いろいろあるとは思うのですが、僕が思っている大きなことの1つはやっぱり良い1on1を経験した機会が増えていったことかなというイメージがありますね。僕自身、自分が部下の立場で1on1を受けた時に「この1on1はすごく良かったな」と思った経験が、自分も1on1をちゃんとしようと思ったきっかけとして大きかったので、何年もかけていろいろな上司の方の1on1を受けていく中でちょっとでも良い経験があれば、そこから発展して浸透していったのかなというのがイメージの一つとしてあります。

吉澤 これはヤフーの特徴というのかな。僕はよその会社の1on1施策をお手伝いすることがたびたびあるのですが、導入となると特定の階層に限定して横に入れるようとするケースが多いと感じています。この部門の課長さん層に1on1を入れたいんです、というように。一方、ヤフーの良いところは全階層がどこでも1on1をやっている。社長からしてやっているという世界観なので、それが特徴的ですよね。ある階層の横だけで1on1をやると、そこで「部下の話を聞きなさい」と言われた層が一生懸命部下の話を聞くんだけど自分自身は話を聞いてもらえる相手がいないという、そこに淀みが溜まるような状態になってしまって、それは組織の健康的によろしくない例です。一方、今、中村さんが話していただいたような“縦に良くなっていく”という現象は確かにあったかもしれないですね。宮田さんはヤフーで1on1が定着した肝について、どうですか?

宮田 その問いをもらったときに、まさに中村さんと同じ答えを思いついたんですよね。良い1on1をしてもらった経験があるということ、それが過半数を超えて、今ではそういう人が大半だと思うんです。上手じゃない人もいますけど、1on1によって自分の課題が解決できたとか、自分の行動が決められて前に進んだとか、何かそういう経験があると、別に上司と部下の関係ではなくなっても問題を解決したいと思えば「ちょっと話をしてもいいですか」と言いに行けるようになるんですよね。

吉澤 ヤフーは上司と部下の組み合わせが頻繁に変わりますけど、上司じゃなくなっても1on1だけ続いていくみたいなことが確かにありますよね。

宮田 はい。それで誰かが悩んでいたら「じゃあ、ちょっと他の人に壁打ちしてもらったら?」と言いますし。そういうことで完全に“施策”という感じではなくて、“組織として習慣化”したのではないかなと思いますね。

吉澤 いやぁ、そうなんですよね。そうすると、「どうしたらそうなるんですか?」って、また誰かに聞かれちゃうんだろうなぁ。「どうしたら1on1が習慣化するの?」という話をどこかでまたできるといいなと思いますけど、僕自身、また棚卸しをしたいなとあらためて思いました。実際、あれはなんだったのかな?ということをもう1回おさらいしておこうかなと。それを紹介できる機会もまた作りたいですし、お二人にも話をまた聞きたいなと思います。ありがとうございました。

中村&宮田 ありがとうございました。


bizlogueではYouTubeでも情報発信を行なっています。

■ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
(著・本間浩輔)

■1on1ミーティング―――「対話の質」が組織の強さを決める
(著・本間浩輔、吉澤幸太)


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