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ああ、すばらしき平熱の世界

流行り病は食欲不振と共にやってきました…。
喉の奥に違和感を感じたと思いきや、翌日には酷い悪寒と関節痛。

私はトレーニーで普段から山ほどサプリ類を飲んでおりますので、こういう時こそグルタミンにEAAにビタミンっしょ!?だって風邪に良いんしょ!?とガブ飲みして生姜をゴリゴリ接種していたのですが、一向に悪化に歯止めが効く気配がありません。あれ?おかしいな?崩れ去る脳筋サプリ信仰。

あれよあれよとプロテインすら飲みたくない状態に陥り、今や絶滅危惧品種(かと思われる)である水銀の体温計を使ってみると永遠に三十八度台から動きません。あまりにも変わらないので「おぬしやはり壊れているな!?」と思っていたのですが、新しく購入した電子タイプの体温計でも結果は同じでした…。

これは遂にコロナになったかなと腹をくくって市のコロナのガイドラインを読んでみると、今は基本的に市販のキットで検査をして自宅で安静なんですね。インフルエンザとコロナの両方を検査できるキットを利用したところ、なんとインフルエンザの方でした…。


いや~いつぶりでしょうか。インフルエンザ。懐かしい響き。インフルエンザ。子どものころに罹ったことがあった気がするけど…正直、心のどこかで自分には無関係だと思っていた…。久しぶりの平熱の世界は快適ですねハムエッグ、ウインナー、ビールが恋しいです居酒屋に行きたいです。


今朝、ようやく平熱になったところでメールを見たらなんと山中千尋さんが丁寧にnoteのサポートへの御礼のメッセージをくださっていて思わず熱が急激に戻りそうになりました。(笑) 物凄くお忙しいのに…すみません。。。「もうちょっとがんばりますね」の一言に、勝手に万感の意を感じながら…。

病床から身を起こして久しぶりに耳にした山中さんのピアノの音色は、フランダースの教会の鐘の音のようでした。

山中さんの文章は、「こんなにも美しくに咲いているのに、早くもっともっといっぱい摘んで世界中に配ってくださらないの?」と言わんばかりに、明らかな、唯一無二の光を放っているんですよね。いや、一目見た瞬間から「早く配ってーーー私どうしてここにいるのーーーねーーーーーヘンでしょーーーーーここじゃないんだけどーーーー」と耳元でメガホンで叫ばれてるくらい存在感があったので、編集者、早くしろです。(笑) うすっぺらい教養書ばかり量産してバラまかないでくださいよ。半年したらみんな、ブックオフすら君の存在を忘れるよ。



それにしても、寝込んでいる間はなんとか無理矢理本を開いてみても全然愉しめませんでした。ああ、私は失われた時を求めての主人公がはじめて憎くなった…「お前はTwitterでもやってフェミニストに叩き潰されてみなさいな」と思ったり、「いやおまえのアルベルチーヌ嬢との青春の敗者復活戦とか心の底から興味ないんだけど」と罵ったりしていました…。これはいよいよ縁がなかったのかも知れない。熱のせいだと思いたい。さよならプルーストになってしまう。


こういうときに読みたくなるのはトマス・マンの「魔の山」です。主人公の青年ハンスがサナトリウムに入ることになり、施設の不思議な病人たちと停滞した時間を過ごす物語…。私は上巻を留学先のマルタで読み終わり、ようやく下巻を読み終ったのは今年の年始に入院した時でしたね。足掛け六年…!

ハンス達の物語は、実に意外な、悲しい結末を迎えました。個人的にあれほど強い反戦メッセージをもった作品は他にありません。

私は、まるで自分までサナトリウムに入ったようにゆったりと流れる停滞した時間を「魔の山」とその住人と過ごすことができました。ありがとうハンス。ベルクホークの愛しい奇妙な住人たち。今でも疲れると、さっぱり分けのわからない社会科学・政治談議を雪山で繰り広げるみんなに会いたくなります。一緒に、やたら豪華な朝食にビールまでついてくる療養所で、立ち止まっていたくなります。

項の中の長年の友を、戦禍が奪ってゆきました。みんなを山頂の施設に連れてきた真犯人である病ではなく。エンジニア、生きて帰っていて欲しい。

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