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【読書】『人は何で生きるか』トルストイ

ロシアの文豪、トルストイ。
『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などの大作で知られるけれど、わたしはこれらの長編よりも、彼の書く民話が好きだ。

彼の語る民話のどこが一番好きかといえば、ストーリーの面白さでもその教訓性が学びになるからでもなく(もちろんその2つはどちらもトルストイの得意とするところではあるのだけれど)、彼が描いて見せるひとつひとつの場面が自分の中にくっきりと刻まれていくところ、体験したことのないはずのロシアの風土と文化が自分の「記憶」になっていくところだ。

死が頭をかすめるほどの極寒の地に吹く、風の音。
安物のブーツに包まれた足に突き刺さる、雪の冷たさ。
その地で飲む温かいスープや冷えたウォッカの、沁みわたるような美味しさ。
厳しい風土の中で身を寄せ合い笑い合うことのできる人との、絆のありがたさ。

彼の民話世界に入ると、実際には一度も体験したことのないそれらすべてが、自分自身の「記憶」となって刻まれるのだ。
いつか認知症になったら、わたしはきっと、極寒のロシアでの「記憶」を周りの人に語るのではないかと思う。
トルストイの「物語る力」は、架空の物語を読者の実体験にさせてしまう力を持っている。


本書『人は何で生きるか』は、とてもわかりやすい言葉で書かれた宗教色の強い民話だ。

「人間のなかには何があるか」「人間にゆるされていないのは何か」「人間はなにで生きるか」、その3つを見出していくというストーリーで、人生の本質をトルストイがどう捉えていたかがとてもよくわかる。

短くてすぐ読めるけれど心に深く残る、トルストイの民話の世界を堪能できる作品。
ぜひ。


※『人は何で生きるか』の他、『イワンのばか』『人には多くの土地がいるか』『ふたりの老人』など、人生の愛と真実について語り掛けるトルストイの民話が入ったこちらの本もお勧めです。↓


最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ素敵な読書体験を!

※書影は版元ドットコム様よりお借りしています。

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