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映画 仁義なき戦い 代理戦争

高度成長期の広島。

広島を牛耳る“山守組”、神戸で対立する“明石組”と“神和会”

“山守にも火傷させたれいや、のう”

小さな組同士の争いに大きな勢力がつけこみ、事態は“広島抗争”へ。

酒に酔って文太さんを投げ飛ばしたエピソードをもつ渡瀬恒彦さんが無鉄砲な若者役を熱演。

広島抗争事件のきっかけとなった“早川組”による“打本会”事務所へのヤクザ入り乱れる殴り込みのシーンは圧巻です!

米ソ冷戦、各国、組織の思惑が入り乱れる局地戦。

広島、呉、神戸など、任侠の世界でも同じようなことが起きていた。

“酒井哲さん”によるおなじみのナレーション。

名前など黒く塗りつぶされた新聞がリアル感を増す。

“この無残な暴力青春”、ついにシリーズ第三弾!

“深作欣二”監督作品、脚本は笠原和夫さん。

安保闘争、岸内閣打倒、浅沼委員長刺殺事件。

物語は昭和35年(1960年)からはじまる。

代理戦争は昭和35年からの三年間を描いているため、第一部の物語の続きは第二部ではなく、この“代理戦争”になる。

“戦いで最初に失われるのは若者の命である、そしてそれが報われたことはない”

個人的にこの作品で一番輝いていると思う登場人物はやはり、“広能昌三(菅原文太さん)”に陶酔する無謀な若者“倉元猛(渡瀬恒彦さん)”だろう。

渡瀬恒彦さんは第一部で山守組若衆“有田俊雄”として倒れたはずだが、そこはやはり“芸能界最強”、“マッドドッグ(狂犬)”と呼ばれた東映一の暴れん坊!

復活してまた大暴れするのだ(笑)

劇中で死んだ人間がまた別の役で出てくるのはこのシリーズというかこの当時の東映作品の特徴のひとつ。

仁義なき戦いで梅宮辰夫さんは一回、松方弘樹さんなんかは二回も別の役で登場している(笑)

これは当時の業界のしがらみ、仁義なき戦いでいえば深作監督が自分のお気に入りの俳優を使いたがったのが理由(いわゆる深作組)

倉元猛は登場シーンからして鮮烈!

広能昌三が客人として呼んだプロレスラー(興行、力道山という設定?らしい笑)と屋台で揉めてなんと相手の耳を包丁で切る!

そのあとは広能の恩師、“先生”が猛とその母親を連れてきて“極道修行させてやってくれ”と広能に頼んでくるというとんでもない展開に(笑)

渡瀬さんの実兄“渡哲也さん”は言った。

勉強も運動も弟の方が出来たと。

この運動には喧嘩も含まれているかも?知れないが(笑)渡瀬さんは地元でも強者として有名だったそう。

喧嘩がめっぽう強い、強いが、決して弱い者いじめをすることはなく、逆にいじめられている人間を助けたとか。

渡瀬さんが日活のオーディションに渡さんの写真やプロフィールを勝手に送ったことがきっかけで芸能界デビューした渡さん。

地元では渡さんが“渡瀬の兄”だったが、渡哲也としてデビューした後は渡瀬さんが“渡の弟”になった。

兄の稼ぎを見てそんなに稼げるなら俺もと芸能界入りした渡瀬さん。

渡さんは渡瀬さんが浮き沈みが激しい芸能界に入ることを反対したという。

本作でも開いた車のドアに掴まって引きずられるシーンなど過激なアクションシーンを渡瀬さんが体当たりで演じているが、若い頃の渡瀬さんは基本的にスタントを使わないスタイル。

それでジープの下敷きになって大怪我をしたエピソードは有名。

“自分は脱サラしてきた人間、演技の勉強をしてきた人間じゃない。
だから土に埋まるシーンなら埋まる、吐くシーンなら実際に酒をたらふく飲んで吐く”

“十津川警部”、“おみやさん”、“特捜9”など晩年の作品からは想像がつかない狂犬ぶり。

この渡瀬さんの危険を顧みない無鉄砲さ、危うさを兄である渡さんが一番理解していたのだ。

“北アルプス山岳救助隊・紫門一鬼”で共演した“髙嶋政宏”さんへの名言も心に残る。

“お前さ、そんなに悩んで、考えて疲れない?”

演技などいろんなことについ力が入りすぎてしまう高嶋さんを楽にした一言だそう。

渡瀬さん以外にも眉毛がないことで有名な“岩井信一(梅宮辰夫さん)”、“武田明(小林旭さん)”、“松永弘(成田三樹夫さん)”、“江田省一(山城新伍さん)”、“槙原政吉(田中邦衛さん)”、“山守義雄(金子信雄さん)”、“村岡常夫(名和宏さん)”、“明石辰男(丹波哲郎さん)”、“早川英男(室田日出男さん)”、“打本昇(加藤武さん)”、“児島会会長(小田真士さん)”など各登場人物を昭和の日本映画界を彩った名優たちが熱演!

見栄っぱりで狡猾な山守の必殺技“泣き落とし”は本作でも健在(笑)

やっぱりどこか裏があって卑怯な槙原政吉や江田省一よりも硬派で一本筋な広能昌三、松永弘に魅力を感じてしまう。

松永は仲間とは戦えないと引退してしまうが、広能と組んで“仁義の世界での悪”相手にもうひと暴れして欲しかったな…。

ちなみに松永弘を演じた成田三樹夫さんは東大に籍をおいたことがある秀才(水が合わない、自分には合わないという理由で中退)

知的な松永にピッタリだ。

武田明の“わしゃそがいな勲章もないしの”、“わしには家賃が高すぎますけぇ”というセリフ。

“勲章もない”とは組のために刑務所に入ったり、大きな働きをしたことがないという意味。

“家賃が高すぎる”とはその役目は自分には荷が重いという意味。

武田明はインテリヤクザの部類に入ると思うのだが、途中で入院したり、弱気な一面、コンプレックスを抱えた新しいヤクザとして当時注目を集めた。

“西条勝治”役で深作監督お気に入りのピラニア軍団“川谷拓三”さんも出てます、もちろん今回もひどい目に(笑)

西条は倉元猛とは対象的な臆病で卑怯なチンピラの役。

なんと本作では自分で左手首を鉈で切り落としてしまう!

この役は当初、歌手の“荒木一郎”さんが演じるはずだったが、山城新伍さんいわく“広島は怖い場所なので行きたくない”という理由で出演をキャンセルしたのだとか。

そのせいで川谷さんがまた、ひどい目にあわされることになった(大抜擢!笑)

“わしゃバカでええと思とりますがのぉ…”

広能昌三はスクラップ置き場に事務所?(笑)を構えている。

“スクラップは金になる”

このスクラップ置き場は実は軍のスクラップ置き場、そこにあるスクラップの番、警備、管理をしているのだ。

“おい、ここらの犬はしつけが悪いのぉ。
わしら犬殺しと間違えちょるんかのぉ”

時系列的にこのあとの物語となる“広島死闘篇”でのこの伝説のシーンは語り草になるが…(犬好きとしては笑えないがどうしても笑ってしまう)

その前には一人の若者の無惨な死があった。

代理戦争のラスト、広能は猛のまだ“熱い骨”を握りしめる。

“戦いで最初に失われるのは若者の命である、そしてそれが報われたことはない”


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