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小説 失ってはならない物

社会福祉士として大切な散歩。今は辛い夜も多いから。

独りの夜に

あれは少年だった頃、鉛筆を使っていた。テストや作文を書く授業があっても、まったくもって折れるという心配はしてなかった。

綺麗な筆箱、わがままばかりの様々な形の消しゴム、そして鉛筆。全部用意してもらった。

鉛筆にキャップを着けている人もいたが少数だった気がする。

絵の具の筆にはキャップなんて使わないし、そんな感覚だったのかもしれない。

だけど、賞状をもらえる絵だって描いたし、鮮やかな色に無意識にしようと思って描いた絵もできた。暗い色の良さがわからなかったけど。

絵には見本がある、それは頭の中かもしれないし、実際に景色や物があるのかもしれない。

それらは、用意されてる。それはあなたの思い出かもしれないし、誰かしらも過去に描いて良い作品ができたことがあるから、またその景色や物の絵を描いてるのかもしれない。

それと同じように、親が用意してくれた鉛筆や筆箱、消しゴムだって、楽しい思い出だけじゃなくて、悔しさや悲しみや嬉しさ、その時々の思いが込もってるんだ。

でもその中で、キャップはなかったのかもしれない。お気に入りの筆箱じゃなかったのかもしれない。

それは、鉛筆の散歩だ。鉛筆を転がしたり、時に鉛筆が折れてしまったりする。お気に入りじゃなかったのかもしれない。鉛筆を大切に扱わなかったのかもしれない

でも、鉛筆で自由に散歩できなかったら、きっとその用途は勉強のみだったように思う。

だけどそれで学校の休み時間にノートに落書きしたり、なんかのゲームを考えてノートに書いたり、

そうやって、自分の余白を作ってきたのかもしれない。

勉強が本格的になったり、試験を経験すると鉛筆が折れてしまうことが怖くなる。そういう経験が何度もある

だけど、好きな人が自分のノートに連絡先を書いてくれたり、大切な人が寄せ書きや何か書いてくれたりする時に、鉛筆が折れたら、書くものがなかったらと考えると怖くなる。そういう経験もした。

お気に入りではない物が、本当にすごく大切になることがある

結局、鉛筆が折れてしまったことがあるから不安もあるが楽しい余白はできる。

だから余白を作ってくれた両親やそれ以外の人かもしれないが感謝しないといけないと思う。

自由とか楽しいことにいつしか不安は混じってしまう。だけど、その不安が余白を生んでくれて、また楽しいことはあると思う。

あの日、絵の具で絵を描いた日に暗い色を避けたが、夜に明るい色を足していくことで生まれる絵も優しい。

夕日だってそうだ。

空が暗くなっていく中で、大切な誰かの後ろ姿と影とを両方写して、それはもう掴めないことを知る。

その瞬間に胸が痛くなる。

だから、辛いことはあるけど、それが余白を作ってくれて、大切さを知れると思うから。

朝が怖くて、夜ももちろん怖くて、そんな日もあるけど、だけど青空が暗くなっていく夕方には、少し怖くない時間もあるから。

それが本当の独りなのかもしれない。

独りだということを感じるということは1人じゃないから。

そう思って、歩みたい。失ってはならない誰かの思いとか物とかはたくさんある。

その途中に、失った物が並ぶ自動販売機を見つける。

続く


後記

だから、独りの夜が怖い時は人に頼ってください。相談してください。誰しもが怖かった経験はあります。恥ずかしいことではありません。

独りが怖くない時は、話を聞いてあげてください。誰かの朝になれなくても、誰かの夕方にはなれるかもしれない。


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