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読書記録 | 森鴎外を読むなら2作目はスリル溢れる「魚玄機」あたりがいいかもしれない

私の数少ない森鴎外の作品通読から申し上げさせていただくのであれば、最も最初に読むべきで最も感銘を受ける作品は余りにも高名な「高瀬舟」であろう。

この短い作品のうちで嘱託殺人について、状況的に仕方のないものとして受け取るか、殺人は殺人と情状酌量の余地もないものとして受け取るか、その出来事の是非を読者に委ねる部分、それから終盤の作品のすべてを覆いつくすかのような情景が印象深いものである。

では、その次に読むとすればどの作品が最適か。

勿論それは個人の考えによるものなので、あくまで主観的なものになるが、「高瀬舟」と同様に短編小説の「魚玄機」が適当ではないかと思う。

魚玄機という大昔の詩人且つ娼婦のいわゆる伝記小説のようなものは、渦中の魚玄機が殺人の咎で投獄される場面から始まる。

それからは、絶世の美女としてもてはやされた彼女が侍女殺害に至るまでの経緯を綿々と追い続けることになる。

途中、途中男に翻弄されながらも詩人としてあり続ける玄機をはじめ周囲の詩が解読不可能な箇所がいくつか出ては来るのだが、読み続けていくと侍女の首に手をかけるまでの玄機の狂気地味た嫉妬心が読者にビリビリと伝わるのである。

絶世の美女でも嫉妬に狂い、それも自分と正反対の立場・容姿の女性であるということ、また蓋を開けると思い違いであったかしれないという事実に、多分な皮肉を感じるものである。


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