2019年4月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第32話
そして、羽が選択した言葉は、正確に竹姫の心の中心を貫き通したのでした。
「竹姫」。この言葉を羽が口にしたことが、これまでにあったでしょうか。いいえ、羽はこれまでにこの言葉を口にしたことは、一度もありませんでした。
それは竹姫を人々の中から排除する言葉、彼女を追い詰める言葉であることを、羽は幼少の頃から認識していたのですから。
そのため、二人がどんなに喧嘩をした時でも、羽が竹姫を呼ぶ言葉は、
月の砂漠のかぐや姫 第31話
二人だけの秘密。羽はそう言いました。二人だけの秘密。何かが、頭の奥の方、意識の底の方で、明滅しています。
でも、それが何なのか、今の竹姫には判りませんでした。その明滅しているものが何かを確かめるため、どうやってその場所まで辿り着けば良いのかが思いつかないのでした。
実は、竹姫は覚えていなかったのです。
逃げた駱駝を探しに、羽と共にバダインジャラン砂漠に行ったそうなのですが、その出来事は自分
月の砂漠のかぐや姫 第30話
「むう、おおげさだなぁ。二人で夜に駱駝を探しに行ったときに夜風に当たったせいで、風邪を引いただけじゃない。高熱で気分が悪くなって動けなくなっていたところを、大伴殿に助けられたんでしょ。それは・・・・・・、わたしだって、寝込んじゃった羽のことが、すごく心配だったけどさ」
少し恥ずかしそうに下を向きながら、羽の身体を心配していたことを告げる竹姫でした。
でも、その言葉の後ろ半分は、羽の耳には届い
月の砂漠のかぐや姫 第29話
「あ、ああ」
予想もしなかったほどの羽の勢いに少し気圧されながら、有隣は答えました。
「竹姫は、次の日にはもう目を覚まされていたよ。どこにも怪我はされていないし、羽が心配することはないよ」
そうです、大伴が羽と共にバダインジャラン砂漠から連れ帰ってきた際には、竹姫はぐったりとして意識がない状態だったのですが、その次の朝には、無事に目を覚ましていたのでした。
そのため、最初は羽のことを酷
月の砂漠のかぐや姫 第28話
「お願いです、輝夜は、輝夜だけは、お願いです!」
そう大きく叫んだと同時に、羽は目を開きました。いったいどのような夢を見ていたのでしょうか。目が覚めたばかりだというのに、羽は酷い疲れを感じていました。意識がまだはっきりとしないまま、羽はゆっくりと上半身を起こして辺りを見回しました。
最初は自分がどこにいるのか、羽は全く分かりませんでした。頭を振って記憶を呼び覚まそうとしますが、もどかしいほど
月の砂漠のかぐや姫 第27話
見当をつけた方へ向かって砂漠を進む大伴ですが、こちらの方にもハブブの影響があったのでしょう、地形が全く見覚えのない様子に変容していました。二人が砂丘の影にでもいたら、気が付かずに通り過ぎてしまうかもしれません。
大伴は一度駱駝の足を止めて、慎重に目を凝らして辺りの様子を窺いました。その時、ある異様なものに気が付いたのでした。
「なんだ、あれは。砂漠に壁、だと」
それは、明らかに自然の法則
「月の砂漠のかぐや姫」に、ファンアートをいただきました!!!
とても嬉しいご報告です。
ヤチダモの幹(わたむし)さんから、拙作「月の砂漠のかぐや姫」第25話に出てくる劇中歌の曲をいただきました!!!
ヤチダモの幹(わたむし)さんは、現在北米にお住まいで、noteには、バンドとして発表する前の曲の素案や、独特の雰囲気を持ったイラスト、そして、読み手を引き付けて離さない文章など、様々な作品を発表していらっしゃいます。うらやましいぐらい多彩な才能を持った方
月の砂漠のかぐや姫 第26話
ハブブが始まってから一刻ほどが経ったのでしょうか。ハブブは始まった時と同じように、前触れもなく消え去っていきました。ハブブが起きることこそ稀ですが、天候の急変は、砂漠では日常的に起きることなのでした。
「やれやれ、まさかハブブに遭遇するとはな」
男は、身を隠していた崖の陰から頭を出して、慎重に砂漠の奥の方を窺いました。大弓と矢を手にしていて、いつでも引けるように態勢を整えています。天候の急
月の砂漠のかぐや姫 第25話
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ハブブの腹の中で、膝をつかせた駱駝の陰に隠れ、風砂の勢いが弱くなることをただひたすらに願うことしかできない、羽と輝夜姫。しかし、その願いも精霊には届いていないのでしょうか、すべての希望をかみ砕く竜巻が、二人の方へと近づいてきているのでした。
「もし、自分に月の巫女として何らかの力があるのであれば、わたしは羽を守りたい。その為に力を使いたい」
砂