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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2023年10月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第289話

月の砂漠のかぐや姫 第289話

「わたしを苦しめる者! これで、消えてしまえっ」
 「母を待つ少女」の母親は、頭上でブワンッグワンッと暴れ回っている巨大竜巻を羽磋たちに向けて放とうと、そのしっぽを掴んでいる手をきつく握り直しました。
 羽磋と「母を待つ少女」の母親は、それぞれ違う理由によるとしても、いまや自分の倒すべき相手としてお互いを認めています。それに、母親がその竜巻を放つのが早いのか、それとも、羽磋が母親の懐に飛び込んでそ

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月の砂漠のかぐや姫 第288話

月の砂漠のかぐや姫 第288話

 羽磋の後方でこの声を上げたのは、理亜でした。激風の塊が消えたことで、理亜を守ろうと身体の上に覆いかぶさっていた王柔が力を抜いたとたんに、彼女は勢いよく立ち上がっていました。そして、自分たちの前で対峙している母親と羽磋の様子を目にしたのでした。
「や、止めろ、理亜!」
 王柔は慌てて理亜の手を取ると、地面に伏せるかしゃがむかをするように促しました。それは、母親がまた激風の塊を飛ばしてきた時に、少し

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月の砂漠のかぐや姫 第287話

月の砂漠のかぐや姫 第287話

 切り裂いた竜巻が上下左右へ飛び散っていったので、羽磋の視界がパッと開けました。羽磋の目が再び捉えた「母を待つ少女」の母親の顔には、「自分が見たものが信じられない」とでもいうかのような驚きの表情が浮かんでいました。
 もっとも、この見事な剣さばきを信じられないのは、それを行った羽磋も同じでした。
 大きく手を振り上げた母親の様子を見た瞬間に、羽磋の身体は動き出していました。理亜と王柔が危ないと思っ

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