2024年5月の記事一覧
月の砂漠のかぐや姫 第314話
もちろん、王柔がその決定に納得したはずがありません。「魔鬼城」とも呼ばれるヤルダンは、砂岩の台地が複雑に入り組んでいて、案内人無しで迷わずに通り抜けることなどできません。また、台地の裾野には無数の襞があり、日中でも太陽の光が差し込むことの無いその暗がりには、人に害をなす精霊が住み着いているとの伝説もあります。それに、そもそも、このヤルダンから直近の村までは、かなりの距離があるのです。病気の女の子
もっとみる月の砂漠のかぐや姫 第313話
実際には、次に理亜が口を開いたのは、ほんの僅かな沈黙の後でした。
たくさんの記憶の中から、思い当たることを探し出せたのでしょうか。理亜の視線が宙の一点に定まり、その小さな口からポツポツと言葉が生まれるようになりました。
「あ、あの・・・・・・。女の子の形の岩の・・・・・・。そうだ。うん、そうだヨ。見たヨ。夜だった。ワタシ、とても・・・・・・」
「ええっ! やっぱり、母を待つ少女の像を見ていたの
月の砂漠のかぐや姫 第312話
母親がどのような答えを出すのだろうかと、精霊に祈るような思いで濃い青色の球体を見つめていた羽磋も、王柔と同じように理亜の方に向き直りました。「理亜の身体の中に『母を待つ少女』の心が半分入っている」と言ったのはこの羽磋でしたが、本人も認めているように、それは結果である現在の状態から原因はそれしか無いと考えたもので、どのようにしてそのような状態になったのかは想像すらできないというのが正直なところでし
もっとみる月の砂漠のかぐや姫 第311話
やはり、この男たちは許せないっ。
ああ、でも、もしも・・・・・・。
またもや母親の心は怒りでグワッと沸騰しかけたのですが、それはすぐに迷いの冷気で静められてしまいました。
「もしも、この男の言うことが本当だったとしたら・・・・・・」
その迷いがほんの僅かでも心の中に残っている限り、母親は怒りに身を任せて彼らを攻撃することなどできないのでした。
何故なら、羽磋の言うことが本当であれば、彼女