Nyaajima Hikaru(ぼんらじ)

演芸好き(身内に演芸家がいます)。創作好き。果物好き。主にコンテストや企画参加用。他、…

Nyaajima Hikaru(ぼんらじ)

演芸好き(身内に演芸家がいます)。創作好き。果物好き。主にコンテストや企画参加用。他、気ままに小説、エッセイも。

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  • 連続X小説マガジン

    X(旧Twitter)で毎日140字以内で更新している小説の倉庫です。

最近の記事

おーい!落語の神様ッ 第三話

 咲太があの爺さんに会ってから一週間が経とうとしていた。日本で唯一の演芸専門誌、東京瓦版発行の『寄席演芸家名鑑』にはフリーランスも含めて全ての演芸家が網羅されているはずだが、あの爺さんは載っていなかった。「そんなはずないんだけどな」と他協会の芸人のページを行ったり来たりしながら目を皿のようにして探したが、見つからなかった。『いつきや』の大将から引き受けた貧乏神も咲太の右肩で一緒になって首を捻っている。  あれから、他人の肩に乗っている貧乏神と幾度となく遭遇していたが、状況に慣

    • おーい!落語の神様ツ 第二話

       自宅から歩いて5分もかからない場所にある居酒屋『いつきや』の暖簾をくぐると、いつものように大将が「いらっしゃいっ」と愛想よく迎えてくれた。咲太は思わず大将の肉付きの良い肩を確認しながらカウンターに腰かけた。日曜日の夕方の早い時間、先客はいなかった。おかみさんがおしぼりとコップを持って来てくれ「いらっしゃいまし」と言ってすぐに瓶ビールを持って来てくれた。おかみさんの肩も確認してしまう。 「どうしたんです、師匠」 「大将、師匠はやめてって言ってるでしょ、まだ二ツ目なんだから」

      • おーい!落語の神様ッ 第一話

         紋付羽織袴姿の男が深夜の浅草を千鳥足で歩いている。この街の人達は気にもとめない。「どうせまたどっかのバカが飲み過ぎたんだろう」と見て見ぬふりをしてくれる。  どっかのバカの正体は、この秋二ツ目から真打に昇進が決まっている落語家の紅葉家咲太、三十四歳。落語の世界ではまだまだひよっこの若手だ。 「ちくしょう。死んでやる。死んでやるぞ」  咲太はガラスに映る自分に向かって、吐き捨てるように言った。 「真打昇進の晴れの日に着る紋付羽織袴がまさか死装束になるとはなあ」  急に誰かに話

        • ショートショート「秘密の副業」

           初対面の男に突然「白髪を染めないでくれ」と頼まれたのをきっかけに、本当に染めなくなって今ではもうすっかり髪が真っ白だ。実際の年齢よりも老けて見られるが、それが返って良かった。  五十半ばを過ぎて独身。親兄弟はいない。親戚付き合いもない。恋人はもちろん、友達もいない。平日は会社と家との往復。社内では、上司には何の期待もされず、部下の誰からも頼られない存在だ。会社帰りに飲みに誘われる事も誘う事もない。外回り中、いつも決まった場所に車を停めてレシピサイトを見ながら献立を考えてお

        おーい!落語の神様ッ 第三話

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          4本

        記事

          秘境

           新宿にはグーグルが撮影出来ないようなヤバい一角がある。まだ百人町に屋台村があった頃、若くて好奇心旺盛のくせに偏見の塊だった俺はその一角にあるバーによく飲みに行ったものだ。  そこはまさに掃き溜めで、今よりもっと肩身の狭いセクシャルマイノリティ達や、立ちんぼ、不法滞在の外国人、やくざ、そして何を生業にしているかわからない怪しい人間の集まる場所だった。そこにいるのは本当に人間だけかと問われたら自信がなくなるくらい不気味な空気が充満しているような場所。「自分がどれほど存在価値が

          「値段なりの仕事をします」という言葉

           私の妻は落語家(個人事業主)である。  毎年、妻が確定申告の為の書類整理をひーひー言いながらやっている。  わざと私の前でひーひー言っている気はするが、そんな姿を見せられては手伝わないわけにはいかないので、私は割と前のめりで手伝う。毎年のその共同作業がなかなか楽しいからだ。  昨年に比べてどういった種類の仕事が減っただとか増えただとか、コロナ禍前と後の違いだとか、二人で話しながら領収書や支払調書の整理をしていく。  日々の暮らしの中で妻の仕事の内容はだいたい把握している

          「値段なりの仕事をします」という言葉

          しゅらしゅら

           十二月ってしゅらしゅらしてるね。  娘の言っている意味がわからなくて、 「しゅらしゅらしてて嫌だねぇ」  と適当に相槌を打った。 「ちがうよ。しゅらしゅらしてるとこがいいんだよ」 「わかったわかった。早く学校行かないと。靴履いて」 「パパ、嫌い」  娘の何気ない一言が気に障ったわけじゃないけど、なんとなくやる気が失せて、心のゲージが急激に減っていって、 「じゃあ、学校行くのやめるか」  そう言って玄関に娘を残して家を出た。  一度も後ろを振り返らず、マフラーを直して、

          ぼんやり猫の店番

           ぼんやり猫(やれやれ猫とも呼ばれている)は店番を頼まれた。  飛行機に乗っている時に頼まれたものだから、飲んでいたブラッディ・メアリも一緒に持って来てしまった。せっかく窓の外のオーロラを眺めながら優雅な時間を味わっていたにも関わらず。    ぱたん。  本を開けるような音とともにぼんやり猫がカウンターに現れた。    店内には数人の客がいたが誰もその小さな変化には気が付かない。    ぼんやり猫がまた次の一文を読んでいく。    そのまた次の一文を読んでいく。  ぼ

          ぼんやり猫の店番

          「世界」小牧幸助文学賞

          昨日失った世界を今日取り戻す明日のボク。

          「世界」小牧幸助文学賞

          「羽」小牧幸助文学賞応募作

          三万六千五百日願ったら背中に羽が生えた。

          「羽」小牧幸助文学賞応募作

          「逃避行」小牧幸助文学賞応募作

          強盗して捕まらずに死んで地獄まで逃げた。 小牧さんが新企画!!

          「逃避行」小牧幸助文学賞応募作

          撃たれた

          「走らないのか?」 このアラシマの言葉に補足をすると、 「走らないと死ぬけど、走らないのか?」 である。 「いや、アラシマさん、走れないんです、これで…」 ノリオは撃たれた右のふくらはぎを見せた。 スタローンみたいなアラシマは軽々とノリオを背負うとすぐさま走りだした。 アラシマ達の後ろでは仕掛けた爆弾が順番に爆発して火の手が迫っている。 さながらランボーである。 ノリオは数年ぶりにアラシマと組んでの仕事だった。 粛清対象がいるビルに侵入して目的を果たしたところまで

          【童話】ヤディとヤドン

           ヤドカリのヤディ・カリィは引越しをする前に自分の家を誰かに渡そうとしていました。 「すみますか?」 「すみません」 「すみますか?」 「すみません」  あっちでもこっちでも、あやまるのと同時に断わられました。  ヤディ・カリィはなかなか自分の家を渡せませんでした。自分の家が他のヤドカリの家にならないと引越しが出来ないので困ってしまいました。 「すみますか?」  そんなある日。反対にヤディに聞くヤドカリがあらわれました。  ヤディよりも少し体が小さいのに、ヤディのよりも

          【童話】ヤディとヤドン

          連続X小説 光と影 61〜73

           この時K氏が、抱えた仕事を私達に振って旅行に行く図々しさを持っていたら、もしかするとまだライターを続け、大成していたかもしれない。だが実際は恋人に旅行の中止を伝え、泣きながら別れを告げられたのだった。編集部総出で穴を空けずに済んだが、彼は人生そのものを失ったようだった。    N氏の連載に登場する女性はとにかく不幸の宝庫だった。N氏の意向を汲んで、私が前もってマネージャーにリサーチしていたのもあるが、回が進むに連れて事務所から「こんなコがいますよ」と売り込まれるようにもなっ

          連続X小説 光と影 61〜73

          本好き【30問】

          ◆いま現在、読んでいる本 「文化がヒトを進化させた」(ジョセフ・ヘンリック) ◆次に読む予定の本 「落語少年サダキチ<さん>」 ◆積ん読のなかで1年後くらいに読むんじゃないかな?という本 「口訳 古事記」(町田康) 「街とその不確かな壁」(村上春樹) ◆手元にないけど近いうちに入手する予定の本 「方舟」(夕木春央) ◆いつか絶対読んでやる予定、しかし予定は未定…の長編シリーズ 「カラマーゾフの兄弟」(ドストエフスキー) 「水滸伝」(北方健三) ◆今の私を作っている基

          連続X小説「光と影」㊶〜60

           T氏は、私のいた会社の社長の後輩だった。社長の出版社勤務時代の話を沢山聞けたが、一貫していたのは「××さん(社長の名前)は昔からダセぇ」で、私達によく「君らの作る本はダセえ」と言っていた。ある時、好きな雑誌はスタジオボイスだと言ったらT氏は満足気に「そこから学べよ」と笑った。  T氏は口は悪かったがそれとは裏腹に文章は美文と評されていた。ノンフィクション本も何冊か出版していて、とてもプロフェッショナルな人だった。若い時に通っていた村上春樹が経営していたバーの話も貴重だった

          連続X小説「光と影」㊶〜60