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出版業界に必要なのは「最低賃金アップ」だけではない

「多くの書籍・雑誌は出版社との再販売価格維持契約により小売価格を拘束されている。最低賃金が引き上げられたからといって、書店は書籍・雑誌の価格に上乗せすることはできない」

この指摘は重要です。

利益率も本の価格も変えられない。売り上げを急に増やせるはずもない。なのに最低賃金を上げろでは、本屋の経営者に対してあまりに酷です。実は我々末端の従業員にとっても。

いま書店の現場で何が起きているかご存知でしょうか? 人員不足です。離職者が出ても補充されない。

先日、上司に「10月から時給上がるんですか?」と訊きました。「上がる」と返されました。

嬉しくないといえば嘘です。でも「時給は上げます。その分従業員を減らします」では本末転倒。もし皆さんがプロ野球選手だとして「年棒を1000万円上げるからレフトとショートを同時に守れ」「できたらセンターもよろしく」と言われたら喜べるでしょうか?

タックスヘイブンを使って課税を逃れ、内部留保を1兆円以上溜め込むグローバル企業に対して「従業員に還元しろ」と国が通告するのは素晴らしい。でも同じことを中小企業に求めるのは雑な施策と言わざるを得ません。

賃上げの価格に応じて法人税を下げる(あくまでも一定規模以下の企業を対象に。消費税増税分の7割以上が社会保障ではなく法人税減税の穴埋めに使われているのは、いまや公然の事実)。もしくは補償を出す。こういった取り組みが必要なのはわかっているはず。

本の「再販制度」には意義があります。なかったらアマゾンの値引き攻勢にさらされ、もっと多くの店が潰れていたでしょう。しかしやはり「出版社70%、取次8%、書店22%」の利益構造を国の力で変えなければどうにもならない。もうそういう局面に来ています。

少なくとも出版業界に関しては「賃金アップ」と「構造改革」が車の両輪です。無論、出版社といっても簡単にひと括りにはできません。書店と同様、人手不足に悩む中小版元も少なくないはず。こちらの事情を一方的に押し付けるのは違うと理解しています。

どうしたものか? 現場からは以上です。

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