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「こんな人になりたい」と憧れた一冊

昔好きだったマンガを、最近よく読み返しています。

すると「自分の考え方」だと長年思っていたものが、実はそれらの受け売りだったと気づきます。知らぬ間に影響を受けていたわけです。もちろんいい意味で。

マンガやアニメの面白さには、人の一生を変えてしまうほどの力が秘められています。たとえばサッカー。いまや日本代表がワールドカップ本選に出場することに驚きはありません。でもちょっと前までは違いました。この急激なレベルアップの要因のひとつとして、高橋陽一「キャプテン翼」の国民的人気が挙げられています。

翼や若林、日向らに憧れ、彼らのようになりたいと思い立ち、サッカーを始める。そういう若者の急増がジャンルの底上げに繋がったわけです。海外の有名選手の中にも同作のファンが多いと聞いています。

彼らにとっての「キャプテン翼」みたいな作品が私にもあります。ご紹介させてください。

より正確にいうと、3巻に収録されている「屋根の下の巴里」です。この作品の持つあらゆる要素が、いまの私に影響を与えています。

まず舞台となっているパリの社会人学校。ここで学ぶ労働者たちの意欲に刺激されました。日本の教育システムは「受験」と「就職」でいい結果を出せばOKみたいなところがありますよね? ずっとそれが不満でした。そういうものから解放されてからが本当の「勉強」なのでは、と考えるキッカケになりました。

次にキートンの落第エピソード。学生結婚したことで仕事と学問の両立が上手くいかず、卒業論文でまさかのDマイナー。そんな彼に恩師ユーリー・スコット教授は「昼間働かねばならないのなら、夜勉強したまえ」と言い、教官専用の書庫を使えるようにしてくれるのです。

私の場合、学生結婚はしていません。でも今作のおかげで「仕事と勉強は両立できる!」と考え、何年もかけて自室を書庫同然にしました。そしていまも朝から夕方までは書店で働き、帰ってから本を読み、考え、拙い文章を綴っています。

さらに触発されたのは、ユーリー教授の骨太な生き方。彼はロンドンの社会人学校で講義をしていた際、ドイツからの空襲を受けました。そして可能な限りの人を助けると、煤で真っ黒に汚れた顔のまま、こう言うのです。

「さあ諸君、授業を始めよう。あと15分は、ある!」
「ここで私達が勉強を放棄したら、それこそヒトラーの思うツボだ」
「今こそ学び、新たな文明を築くべきです」

すごくないですか? 生き延びることだけが目的なら、授業などやめてさっさと逃げればいい。でもそれでは何も解決しない。学ぶことで間違ったものを正し、自分たちの手で新たな時代を築く。意志と主体性の強さに背中を押されました。

さらに教授は「唱えたら学会を追放される」学説をあえて発表します。自ら職を辞してまで。つまり真理の追求をどこまでも優先し、全体主義の同調圧力に屈しなかったわけです。

こんな人になりたい。生き方は違ってもこういう精神力を持った人に。いま読み返しても素直にそう思えます。

今作の終盤、キートンが「人はなぜ学び続けるのでしょう?」と学生に問い掛ける場面があります。その答えはぜひ皆さんの目で確かめてみてください。

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