僕の生き方。

あぁ、またか。

起きるのは億劫だが、このままだとさらに次の駅まで行ってしまう。体はなんだか気だるくて、先刻まで考えていたことも確かとてつもなく面白くないことだった。

重たい足を引きずってエスカレーターに乗る。
一駅前で起きていれば、寒い夜に次の電車まで20分も待たなくて済んだのに。

折り返しの電車のホームのベンチにどっと座る。
次の電車は0時34分。
やることもないし、誰もいない。
静まり返ったホームにピンポーンとたまに改札の自動音が鳴る。

こんな眠たい日に限って寝過ごすなんて。
きっと他の人は寝過ごさず家に帰ってゆっくり寝てるんだよな。

はあ、とため息をつきながらベンチで足を組み直す。
さてと、先刻は何を考えていたかな。

思い出した。

なんで、こんなモブキャラみたいな自分が生きているかだった。漫画や映画でいうところの、通行人Aさんの僕の人生についてであった。大学生までは順当に育ち明朗だった僕が社会人になって自らをもびっくりするぐらいの不真面目なカスみたいな人生を送っていることについてであった。社会人になった瞬間に生きる目的を見失っている僕は通行人Aさんではなく、生き霊Bだ。

まだ電車は来ない。

考えてみれば、生きることについて僕は遅れていた。自分のどん臭さは否めない。重要なことではトチるし、人生では人の3歩後ろを歩いている。20代前半が終わろうとしている今でさえ未だに、何がやりたいか決まっていない大人なのだから。今日も彼女に怒られたよね。次何やるか早く決めてよ、って。僕はデートの段取りさえ決められないクソみたいな彼氏だ。

何だか電車が来る気配がない。
深夜の静まったホームのベンチに冷たい夜風が吹く。

周りの友達は何かに真っ直ぐでいい青春を送っている。僕は羨ましくて指をくわえて見ているだけ。でも、応援はしてあげたい。僕にいつか同じような瞬間がくることを待ち望んで。ただ、何一つ決心できぬ僕にそんな瞬間は来ないかもしれない。神様がいたらそんな怠け者にチャンスは与えないし、神様がいないなら尚更そんな奇跡は起こらない。充実した生活とは努力を楽しめる人にあって然るべき報酬であるのだから。

反対方向の電車が来たから、あと少し待てば電車が来るのかな。

そういえば、先刻電車から降りた時に僕にくだらないアイデアが舞い降りていた。たぶん寝過ごしは人生リセットなんじゃないか。寝た後に死んでしまった僕と寝過ごしに気づいて下らないことを考えている僕とが存在する。後者の僕は案外ラッキーなのだ。死ぬほど疲れていた僕に、これまでのことはチャラにしていいよ、他のやつがお前の役をやるからと僕に新たにこの役が回ってきた。そう考えることもできまいか?

じゃあ、僕ならこの人生どう生きよう。
今まで通りだらだら生きるか。
楽しいふりをしながら。

僕はやっと来た電車に乗って帰路についた。



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