見出し画像

クリスマスイヴ(ショートショート)   

 今夜はクリスマスイヴというのに、俺は1人でアパートの部屋で酒を飲んでいた。パーティを誘ってくれる友達もいないし、当然ながら彼女なんていない。俺は孤独であった。
 仕事仲間といえる人たちはおらず、勤務先の営業所には俺より年寄りな先輩ばかりであり、若い女性など1人もいなかった。
 大学時代の友人が懐かしかったが、皆離れ離れになってしまった。俺もまさかの田舎の営業所勤務で、電話かメール、ラインでもするしかない。リモート飲み会という手もあるが、どうやら他の連中はそれぞれの地でうまくやっているようで、今夜は誰も俺の相手をしてくれるやつはいそうになかった。
 そんな時、ドアチャイムが鳴った。俺はどうせ怪しげな宗教か、新聞の勧誘か何かだろうと思って、ドアスコープを覗くと、宅配便であった。
 ドアを開け、荷物を受け取る。重い。誰からだ。宛先が書いていなかった。
 俺は梱包を解き、中を開けて見ると、これはまた、若い女の子が1人出てきたではないか。
「き、君は誰だ」思わずのけぞった俺はそう聞くのが、精一杯である。
「サンタクロースからのプレゼントでぇ~す」
 可愛い子ぶりっ子で、その女の子はいった。俺はぐるっと彼女の回りを見回すと、何ということか、その娘は平べったい2次元の女の子であった。
 人間じゃあないじゃないか。誰が送ってきたんだ。これでは一反木綿ではないか。
「空気を入れれば3次元になりま~す」
 そう彼女は言って、背中にある空気の入れ口を指した。浮袋と同じ原理らしい。俺は言われた通り、そこから空気を入れだした。口から入れると、なんとも時間がかかりそうだ。そこでアパートの前に止めてある自家用車のタイヤ用のコンプレッサーを使うことにした。最近の車はスペアタイヤを乗せずに、緊急補修材とコンプレッサーを入れている。
 車のエンジンをかけ、コンプレッサーのスイッチを入れ、空気の入れ口に差し込んだ。グングン空気が入っていった。
 どのくらいまで膨らむのだろうか。彼女はどんどんふくよかになっていった。そろそろよかろうというところで、俺はコンプレッサーを止めようとしたが、彼女の正面、つまり車と反対側に俺はいたために、大きくなった彼女の体が邪魔になってスイッチを切ることができない。仕方がないので、背中の空気の入れ口からコンプレッサーのノズルを抜こうかと思ったら、これも手が届かない。
「やばい」
 彼女はまるまる膨らんで行って、ついには「パンッ」という音とともにバラバラになってしまった。
 俺のクリスマスイヴはこうして終わった。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?