見出し画像

”古来より” ”昔から” それっていつよ?

みなさん、こんにちは。Naseka です。
哲学者・エッセイストとして、
自らを定義しています。

「○○は古来より××の領土である」
ロシアとウクライナの揉めごとの中にも、
このような主張が表れることがありますね。

「ウクライナはロシア固有の領土である」
「我々は領土を『取り返している』のだ」
詭弁ではなく、プーチン大統領は本気で
そう考えているように思う。
(東欧の歴史を自分なりに調べると、
 あながち大間違いではないようには思える)

…もちろん今のロシアの行動を
 正しいと言いたいわけではない。
(少なくとも武力行使には賛同しかねる)

個別の事例やその是非はさておき、
私は この手の表現に疑問を抱いている。

このセリフを口にする人の言う
「古来より」とか「昔から」というのは、
いったい いつのことを示しているのだろうか。
そして、その基準と根拠は何であろうか?


思考実験 -身近な領土問題-

Q1.
あなたは自前の持ち家と敷地を持っており、
(登記など、法的にも
 権利が認められているとする)
私はその隣人である。
仮に私があなたの敷地の一角を
「ここは私の土地だ!」
と主張したらどうだろうか?

 

A1.(解答例)
・毅然とした態度で追い返す。
・「ヤバいヤツがいる」と警察に通報する。
・持っている銃をぶっ放して追い払う。
 (あなたがアメリカ在住の場合)

 

それはそうだろう。
紛うことなき自分の土地を
横取りしようとしてくるのだ。
そんな相手は慇懃無礼な不届き者でしか
ないだろう。

では、ちょっと条件を変えて考えてみよう。

Q2.
あなたは自前の持ち家と敷地を持っている。
(登記など、法的にも
 権利が認められているとする)
ただし、その土地は 約300年前に
あなたのご先祖様が私のご先祖様から
戦争の際に武力でブン捕った土地である。

土地を奪われた私のご先祖様は、来る日も来る日も
「私の土地を返してほしい…」
と涙ながらに訴えたが、
あなたのご先祖様は一向に返さない。
我が家は代替わりをしても、訴え続けた。
あなたの家は、それを断り続けてきた。
(経緯を知っているご近所さんからは
 白い目で見られてきた)

そんな関係が200年くらい続いた中、近代法制の中で
あなたのご先祖様(奪った先祖の子孫)が
自分の土地として登記してしまった。

さて、私はそんなあなたの隣人である。
仮に私があなたの敷地の一角を
「ここは古来より我が家の土地だった!
 返してもらおう!!」
と主張したらどうだろうか?

 

A2.(解答例)
・「そんな昔のこと知らないよ」
・「今は私の土地なんだから…」
・「…(無言で銃をぶっ放す)」

 

思うところは人それぞれ違うかもしれないが、
大半は
「それは悪かった。
 すぐに土地をお返ししましょう。」

とは言わないのではなかろうか?
もしいたとすれば、余程の聖人君子であろう。

では、これが立場を逆にしたらどうだろうか?
ご先祖様の無念を忘れられず、
あなたが必死に訴えたにもかかわらず
けんもほろろに断られてしまうのだ。
それで一切の恨みつらみなく
諦められるのであれば、
これまた、あなたは聖人君子に違いない。

世界があなたのような聖人君子ばかりであれば、
世界中に争いごとなどなくなるのであろう。

私が思うに、だいたいの領土問題は
この思考実験と本質を共にしている。

「人間の歴史は 争いの歴史」
と言っても過言ではなく、
歴史の積み重ねの中で、
奪い奪われてきたのが領土である。

先の例題は 300年前までで遡るのを止めたので
簡単だが、
実際の歴史や領土問題はそんなシンプルではない。

Q2. にしても、さらに前提に
「500年前に 私のご先祖様が、
 あなたのご先祖様からブン捕った土地である」

と付け加えたら、
答えもまた A2. から変わってくるだろう。

どこの誰の言葉か失念してしまったが、
地政学に関する本を読んでいて
「隣国同士は仲が悪いのが当たり前。
 仲がいいならハナからひとつの国になってるよ」

といったようなニュアンスの一文を
見かけたことがある。
なるほど、そのとおりだと思う。

まとめ

要は何が言いたいのかというと、
「古来より…」だの「昔から…」だの、
或いはそれらを根拠とする
「正しい○○」だのというものは、
根拠が非常に曖昧で不安定なもの だ
ということである。

だから領土問題なんてのは
歴史を遡っても水掛け論にしかならないし、
正直 不毛な争いだと思う。
(平和だからこそ言えることではあるが)

もちろん当事者感情としては
受け入れられぬこともあるだろう。
だが、だからと言って先に武力を持ち出せば、
たとえ正当性を主張しようとも非難の的となる。
(少なくとも 21世紀の現代社会においては)

これを言ったらおしまいかもしれないが、
どうせ誰もが正当性が曖昧で
水掛け論にしかならないなら、
あくまで「現状」をベースに
話し合いで解決を図るしかない。

言うは易く行うは難し

それができたら誰も苦労はしないのだが…

お読みいただき、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?