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[書評] ウッドロー・ウィルソン 全世界を不幸にした大悪魔

みなさん、こんにちは。Naseka です。
私は 哲学者・エッセイスト として、
自らを定義しています。

書評は今回で3作目。
今回は物々しいタイトルの本が対象です。

きっかけは、著者である 倉山満 氏の
別の著書を読み、
非常に大きな気付きを得たことだった。

そちらについてはまた別の回で紹介するが、
その本の中で これでもかと
ウッドロー・ウィルソンのことを批判していた。
(本の主題には関わっていないにもかかわらず)

その本の内容自体が非常に面白かったことに加え、
著者の主張・文章もユニークであったことから、
「そこまで言うなら読んでみたい」
と思い、読むに至った。

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ウッドロー・ウィルソン について 

かつて世界史を学んだ人なら、
名前を聞いたことくらいはあるだろう。
(授業を聞いていなかった人は初耳かもしれない)

ただ、私を含めて「何をした人か?」と問われれば
「国際連盟の設立を提唱した人」
くらいの認識がいいところだろう。
「十四か条の平和原則」なんて単語も浮かべば
一般教養レベルでは十分及第点だろう。
(私は全然覚えていなかったが)

まず その
ウッドロー・ウィルソン(以下、ウィルソン)
について、簡単におさらいしよう。

↓ 恒例となりつつある Wikipedia リンク

ざっと まとめると、(一般的には)こんなところ

・第28代アメリカ合衆国大統領
・大統領在任期間:(1913 - 1921年)
 → 第一次世界大戦期と重なる
・ルシタニア号事件を契機に大戦に参戦
・1918年、「十四か条の平和原則」を発表
・1919年、ノーベル平和賞を受賞
 (授賞理由:国際連盟創設への貢献)

 

教科書に書かれていないこと

だいたい上記のことは、こまかい年号は別にして
習った覚えがある人も少なくないだろう。

私は教科書と授業の情報から、ウィルソンに対して
漠然とこんなイメージを持っていた。

・泥沼になっていた世界大戦に参戦し、
 同盟国側に引導を渡した。
・世界平和のために力を尽くした立派な人。
 → 最大の功績が国際連盟創設
・立派な人だが、国内世論の理解が得られず
 アメリカの連盟加入が叶わなかった無念の人。
・ノーベル平和賞を受賞するくらい
 世界の平和を愛した人。

 

…いかがだろうか。

「立派」とか「無念」とか
「平和を愛した」なんて表現は、
たいていの教科書には載っていないはず。
そんな主観的・感覚的な表現が堂々と
載っている教科書は、思想教育用だから
今すぐ投げ捨てた方がよい。

まぁ 冗談はさておき、
これらの印象は 私ひとりの「ヤバい妄想」なのか、
はたまた多くの人が「自然と受ける印象」なのか…

ただ、教科書を読む限りでは
全く正反対のイメージを抱く人は多くないと思う。
(過激な主張の先生にでも教わらない限りは)

今回紹介する本の著者である倉山氏は、
これら日本の学校教育の中で
日本人が漠然と抱えがちなイメージを
ぶち壊してくれる(頭をカチ割られるほどに)。

キリストになりたかった大悪魔

倉山氏の表現を借りれば、ウィルソンは
「(控えめに言って)現在の人類の不幸の九割を、
 一人で作った極悪人」

であり
「自ら『救世主キリストになりたい』男」
だった。

世界平和も国際連盟もアメリカの国益も
それ自体に興味はなく、あくまで
「それをすることで、自分はキリストになれる」
というのが、ウィルソンの行動原理だった。

だから中南米における彼の政策を見れば
「平和主義者」とは言い難いものがあるし
(中南米で彼を「平和の使者」と評する人が
 どれだけいるだろうか)、

アメリカ自身が国際連盟加入に至らなかったのも、
国内世論を無視して ひとりで暴走したからだ。
(本書を読むと、その理由がスッと腑に落ちる)

たしかに少し落ち着いて考えてみれば、
ノーベル平和賞受賞にしても、成果を検証した上で
評価されたわけではないことは容易に理解できる。
(授賞年を見れば)

取り扱い注意の劇薬

書評ということで、この本について一言述べるなら

「批判的思考を持たない人は読まない方がいい」


ということだ。もう少しソフトに表現するなら、
「自分で考えずに、内容を鵜呑みにする人は
 本書を読むべきではない」

と思う。

あまりに内容や表現が過激である
(という印象を私は受けた)から、
それを鵜呑みにして自分の意見とするのは
止めた方が賢明だと思う。
(「 ” 学校教育と比較して ” 過激」という意味)

言うならばそれは、
SNS で流れてきたフェイクニュースを
真偽も確かめずに鵜呑みにするのと
本質的に同じである。
(拡散せずに自己完結するなら、まだマシだが)

勘違いしてほしくないのは、
「この本は信用するに値しない」
と言っているわけではないことだ。

私も気になった事項については
しばしば自分で調べながら本書を読んだが、
少なくとも私自身が
「これは間違っている」という記載は
1カ所を除いて見つからなかった。
(その1カ所は後述、たぶん ただのポカミス)

冒頭に書いた
「本書を手に取るきっかけとなった本」
も含めて、倉山氏の与えてくれる視点は
非常に有意義で啓蒙的 であると思う。
少なくとも私は好きだし、
他にも読んでみたいと思う著者である。

※ 本書で気付いた誤り

第5章の中で
「ハイパーデフレに見舞われたドイツ人は、…」
という記述があるが、これは明らかに
「ハイパーインフレ」の間違い。
これは歴史認識云々ではないので、
単なるポカミス(誤記)だと思う。

まとめ

歴史や政治に限らず、何事も「良い面」「悪い面」の
両面を見て考えることが大切だと思う。

一般的に学校の教科書では、ひとつの事象について
多面的に解説されることは少ない。
特に歴史教育については、そうだと思う。
(それが恣意的であろうとなかろうと)

日本で生まれ育つ人間の大半が受ける
歴史教育について一面的な思考しか持たぬことは、
このグローバル社会において
デメリットが多いだろう。

ウィルソン個人やその実績が
「良かったか」「悪かったか」は
その人の主観によるものだ。
ぜひ本書を読んで、貴方なりのウィルソン評を
考えてみてほしい。
(コメントいただけたら幸せです)

こんな人にオススメ!

・世界史(特に近代)に興味がある人
・通説とは違う話を知りたい人
・忌憚のない批評が好きな人

こんな人には合わないかも…

・情報を鵜呑みにする(自分で考えない)人
 → 合わないというより「読むべきでない」
・ウィルソンのことが大好きな人
・鋭い表現が苦手な人

お読みいただき、ありがとうございました。

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