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ビールとコピーで地方からいい仕事を発信している人/ONOBORI3こと竹内 躍人さんに聞く【Bのはなし】

フリーのコピーライターになるには、デザイン会社や広告代理店で少なくとも5年6年経験を積んでポートフォリオを充実させてからというのが、定番コースだ。しかしそれをショートカットして、会社づとめのコピーライターを何年もやってる私が羨ましくなる、いい仕事をしている人物がいる。群馬・前橋を中心に活動している、竹内 躍人(たけうち やくと)さんだ。

コピーライターの仕事は、まず商品やサービスの核心をとらえて伝えることがある。そしてプロジェクトを言葉でファシリテーションしていくこともある。さらには自分自身でプロジェクトを起こすこともある。だから本来とても職域が広い仕事なのだけど、竹内さんの活動をコピーライターの一言で紹介するのは、ちょっともったいない気がする。

そこで私は、竹内さんのことを誰かに伝えるときに、こんな感じで話すことにしている。「前橋にコピーライターでビールが好きで、その両方がいい感じにつながって、いい仕事をしている人がいる」と。

お話、“文字屋”のONOBORI3こと竹内 躍人さん(29才)

▲竹内さんと筆者。二人ともメガネでコピーライターです。

———— 竹内さんの名刺の肩書きは、コピーライターでなく“文字屋”なんですね。屋号の“ONOBORI3”もとても面白いと思います。どうしてこうなったのでしょう。

青森県のむつ市から大学入学と同時に群馬にやってきました。現在前橋を拠点に仕事をしています。前橋でコピーライターを名乗ったとしても「あ、ライターでしょ?」とか「キャッチコピーを考える人ね」と、本来のコピーライターの仕事を理解してもらえません。僕はコンセプトも考えるし、コピーも考える。ちなみに書道も長くやっていたので、看板も書けるんです。コトバにまつわることなら何でも頼んでほしくて、文字屋を名乗ることにしました。

▲竹内さんの名刺、裏面。「7コ毎に、チャンス!」が気になる…。

屋号のONOBORI3は、青森の田舎出身のオノボリサンであることを忘れたくないという気持ちを込めています。名前自体はイベントで大喜利を開催して、参加者の皆さんに決めてもらいました。時には「OSHIBORI3」なんていじられることもありますが(笑)、覚えてもらいやすく気に入っています。

————いわゆる広告会社の経験がない竹内さんですが、いつ頃から企画やコピーライティングを始めたですか?

高崎の大学在学中に、トヨタが主催する地域を活性化するアイディアを創出する学生コンペ(TOYOTA AQUA SOCIAL FES Student Camp/2012年)で賞を頂いたことで自信を得て弾みがつき、地元前橋を活性化するさまざまな企画に携わるようになりました。

卒業後就職したのは地元ラジオ局。取材、ディレクター、パーソナリティなど何でもさせてもらえる職場で、在職中に金曜日の前橋の夜に繰り出してもらうためのビールイベント「とりあえず金曜ビアテラス」(2013年)や、前橋駅前で地元の野菜を販売する「前橋駅前ままマルシェ(2015年)」も企画しました。マルシェは前橋駅前が賑わい、収益も出て、たくさんの人に喜んで頂きました。広告会社の経験はありませんが、ラジオ局に在籍していた4年半の間に、企画・ネーミング・コピーを書くということを、実践しながら学んでいきました。

▲活動拠点の“基地”は、フラワーショップ花園さんの2Fに。

————「とりあえず金曜ビアテラス」もそうですが、ビールの仕事も多い竹内さんです。なぜビールなのでしょう。

ビールが好きなんです。ラジオ局を辞めた後に「最近ビール文化が面白いのはイタリアだよ」と知り合いから聞いていたイタリアを旅しました。途中ユニークな小規模のブルワリー(ビール醸造所)があるオルビエートを訪ねたりするうちに、もともと好きなビールにさらに夢中になっていきました。ただ、ビールの味わいやビール造りだけでなく、ビールから広がる仲間のつながりも好きです。ウイスキーやワインや日本酒もいいけれど、ビールって知識も持たずにみんなでワイワイと楽しみながらハッピーになれるお酒だと思うんです。そこがいいですよね。

「とりあえず金曜ビアテラス」での経験を通じて、ビールの仕入れ方やサーバーの借り方など、ビールを提供する一通りのやり方を覚えることができました。それから「どこそこの場所でビールを出したいから」という人が声をかけてくれるようになり、企画の仕事にもつながるようになりました。

————9月に新潟の南魚沼でも、ビールのイベントを成功させたばかりですね。詳しく教えてください。

南魚沼市・六日町駅と上越市・犀潟駅を結ぶ北越急行「ほくほく線」内で開催した「ビアほくほく」の企画を担当しました。地元ブルワリーを中心としたクラフトビールを車内とホームで楽しむイベントです。イベントを知らずに電車に乗った方が、ビールブースを見て「ビールがあるんだったら、ひと駅先まで乗っちゃおう」なんていう、偶然性が楽しかったですね。同時期に開催していた越後妻有のアートトリエンナーレのために遠方からやってきた若い女性から、地元の方まで、幅広いお客さまが集まってくださったことがよかったです。

————「ビアほくほく」は具体的にどんな関わり方をしたのでしょうか。

依頼を頂いた当時、南魚沼市にある醸造所 STRANGE BREWINGの季節のビールのラベルディレクションをさせて頂いていて、その縁から僕に声がかかりました。プレゼンで「通常運転している電車の中でビールが飲める」という企画が響いたようで、後から北越急行さんから「貸切車両で行う、いわゆるビール列車みたいな提案だったら断ろうと思っていた」と言われました。僕もまったくそれだったらつまらないと思っていたので、よかったです(笑)。

企画が決まった後は、細かい部分は地元の醸造家や北越急行さんがいろいろ行なってくださいましたが「沿線の人は地元以外のビールも飲めると楽しいはず」と、群馬の醸造家を呼んできたり、フライヤーを作ったり、前日は会場で使用する椅子集めをしたりもしていました。紙の上の企画だけでなく、実際体も動かすことが多いですね。

▲イベント前日に竹内さんはfacebookで丸椅子を募集していた。

————そもそもこの仕事をめざしたきっかけは?

大学3年生だった2011年に、東日本大震災の半年後に福島県内6会場で開催されたロックフェス「LIVE福島」に参加しました。フェス自体も感動的なものでしたが、原発による風評被害も広がる福島に駆けつけて、こうしたイベントを開催し、人を勇気づけることができる人って本当に素晴らしい! と心を揺り動かされました。実行委員長の箭内道彦さんの肩書きを見ると、クリエイティブディレクターとありました。その時に「クリエイティブディレクターってなんだ?」となったわけです。

箭内さんは美大出身ですが、調べるうちにデザインを学んでいなくてもクリエイティブディレクターになれることがわかり、コピーライターを意識するようになりました。箭内さんのように自分の大切な場所で一大事が起こったときに、いち早く動ける人になりたい、ということが、僕の原点であり、目指し続けたいところです。 

————前橋、新潟と地域を盛り上げるお仕事を多くされていますが、どうなる状態が、成功と言えると思いますか。

地方で行なっていると盛り上がることが目的になってしまうことがあります。イベントの場合、来場者数や売り上げも大事なことですが、本当に大事なのはイベント終了後。何事もなかったように静かな町に戻ってしまってはダメで、そこから何かが始まることが大切だと思います。前橋について言えば、確かにあるもっと個性が前に出て、みんなに伝わるような「らしさ」が育つといいなと思っています。

————竹内さんの場合、「依頼される」と「竹内さんがやりたい」思われる仕事がほぼ一致しているように思われます。どうしたらそういう状態が生まれるのでしょう。

フリーで仕事を始めたばかりの時は必ずしもそうではありませんでしたが、今まで試行錯誤しながら積み重ねてきた実績と、様々なご縁から、積極的に営業をしなくても、ぜひ参加したいと思うような仕事を頂けるようになりました。ただ、自分からSNSで発信をする時などに、自分がその時に考えていることを込めてアウトプットするようにはしています。意識的にというよりは、どうしても言いたくなってしまうのが僕の性分なのかもしれませんが、そこに共感して頂ける方とつながっていくことが多いと思います。

————もし竹内さんのように仕事をしたいという人がいたら、どうしたらいいと伝えますか?

僕もまだまだこれからといった立場ですが、もしそう言ってくれる人がいたら「思いとどまらず、やってみる」ことをおすすめします。失敗のリスクをあれこれ考えるよりも、やってみてわかることの方が大きいですよ。踏み出し続けることが大事です。今日は、上手く言った事例をお話しをしましたが、過去には一人しか来ないイベントだってありました。そういった経験があって次の学びにつながっています。

————これから目指していることを、はじめることを教えてください。

コピーライターとしての高い能力を身につけたいです。コピーライティングは地域やビールのことを発信するのに、すごく武器になることだと思っています。腕を磨き、地方から全国区のコピーライターとして認められ、自信を持ちたいですね。言葉がよければ一気にまとまるし、伝わることを実感しています。

またビールについては、ここ数年たくさん知り合いから「そろそろ自分のビールを造れば?」と声をかけて頂きます。でも現在は、造る職人さんは大勢いらっしゃるので、それを伝えることが僕の役目と思っています。ただ造ってみたいと思う日もいずれやって来るかもしれません。勉強だけはしておきたいと思っています。

それから目指していることではないのですが、体重ももう少し落としたいです。「ビール飲んでいるから太っている」と関連づけて思われたくないんです。ビールと一緒に食べるものが悪いだけで、ビールは不健康な飲み物ではありません。そこを自分の体でアピールしたいと思っています。毎日きちんとビールを飲んで、健康な体を維持します!

【お話をうかがって】

竹内さんはとても感じがいい。私よりぐっと年下なのだが、へりくだりすぎず、同じ目線で話をしてくれることが心地いい。年若くても、クライアントが信頼し、大きなプロジェクトもまかせてしまう理由がわかる。コピーライターは、経営者とも対等な関係をつくることができることが理想だ。

また「わかりやすさ」もいい。前橋が好き。出身の青森が好き。東北が好き。ビールが好き。好きなことや得意なことをいつも全面に出していることで、仕事も頼みやすいし、はじめて会う人だってなんらかの話の接点を見つけやすい。それにわかりやすい特徴があると、「前橋にコピーライターでビールが好きで、その両方がいい感じにつながって、いい仕事をしている人がいる」と、人から人へと伝えやすい。竹内さんのもともと持っているパーソナリティの良さや能力の高さは確かにある。けれど「同じ目線に立つ」ことや「自分の好きを全面に出す」ことは、誰だって今日からマネしてもいいのではないかと思った。

インタビューの最後にこんな質問をしてみた。「好きなビールの仕事だとしても、もしあまり知らない分野の仕事が来たらどうしますか?」と。すると竹内さんから迷わず「できますと言います。勉強しながらやります」という答えが返ってきた。確かにそれがいいと思う。調べてもわからない時には、きっと教えてくれる人が現れる。世の中には志ある人に、教えたいという人もたくさんいるのだから。

【竹内躍人さんのブランディングのポイント】

●オリジナルの肩書きで職域とコミュニケーションを広げる
●前橋、ビール。自分の好きなもの得意なものを全面に出している
●やりたいことを明快に伝えることで、共感者を増やしていく
●人と人とのつながりや、対等な関係を大切にしている
●目指しているのは、大切な場所の一大事の助けになれる人。
そのために職能を磨いている
●やってみてわかることは大きいと考える。思いとどまらずまず踏み出す
● ビールの不健康イメージを払拭するためにダイエット。見た目も大事に

文字屋 ONOBORI3代表 竹内 躍人(たけうち やくと)/ 群馬県・前橋市
平成元年生まれ。青森県むつ市出身。高崎経済大学卒業後、前橋のラジオ局などを経てフリーランスに。前橋を拠点としてコピーライティング、プランニングなど言葉のすべてに携わりながら、ローカルメディアづくりや広告制作を行なっている。朝の清掃から古墳グッズ制作まで「前橋で〇〇したい」をカタチにする「前橋〇〇部」の二代目部長。昨今、好きなビールが仕事につながりつつある。企画立案実行に「ビアほくほく」(北越急行株式会社)、コピーに「母の日」は、1年1度だけお母さんに感謝を伝えやすくなる日です。花園の母の日(フラワーショップ花園)などがある。

(取材:川原綾子)

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川原綾子

コピーライター/日本デザインセンター/ひと、もの、こと、場所。あらゆるものをブランドととらえ、その背景にあるストーリーを個人取材としてお聞かせ頂いています。
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