ベーコン・一日一言(ニ)「友情と対話」

ベーコンが友情の重要性を説く理由の一つに、友人と対話することは、知性や思想の闇から自分を救ってくれる大きな助力となるというものがある。
対話の力。これはほんとうに大きいと思う。対話においては、対話の後で、自分の考えが変わっていなければ意味がないとされる。ディベートでは勝ち負けがあるかもしれないけれど、対話は違う。
ベーコンは「1時間の瞑想よりも、1時間の対話によって人間は以前よりも賢くなる」ともいう。
対話によって人間は心に抱いた多くの考えを他人に伝える。そうすることで、「才知や知性が明晰になり、ほぐれてくる。」そうベーコンは語る。
ベーコンがいわんとするのは、アイデアは他者と語り合い、他者に伝えることによって徐々に輪郭がはっきりとなり、醸成され、より整然としたまとまったかたちになるということである。そして、他者との対話によって、人間の知性や思想は開花するという含意もある。
これはわれわれの今日における実感に馴染むばかりか、歴史上の知の営みの姿とも重なるのではないだろうか。
今日においてさえ、学術上の論文は学会で他の学者たちと議論されることで練り上げられ、完成され、議論の末、また練り上げられるというサイクルの繰り返しであるし、ほとんどの仕事や研究が、他者との綿密な議論を必要とする場面があり、少なくとも十分なコミュニケーションなしには成り立たない。
微積分法の先取権をニュートンと争った、かの大哲学者ライプニッツは、千通以上の相手と文通し、自身のアイデアを練磨した。
日本最大の百科全書的博識家、南方熊楠は、土宜法龍と知的格闘を重ねたことで知性を鍛え、思索を深めたし、ネイチャー誌上に日本人最多の論文を投稿したことでも知られる。(ただ、ネイチャー誌がまだ黎明期で、今日と単純に比較はできない。)
気心のしれた友人との知的な議論。ベーコンが想定したのは、そうした対話によって双方がよりよく変わることによって、心の曇りや思想の闇が晴れ、互いに成長していくような関係性だ。ベーコンの随筆集がイギリスの哲人の『論語』と形容されるのも頷ける。
認知バイアスやエコーチェンバーやフィルターバブルに限らず、さまざまなバイアスや思い込みも、賢明な友人や年輩者と対話することで解消されたという経験を持つ人も少なくないだろう。
インフルエンサーのYouTubeよりも、身近な人々や新しく出会った人々とじっくり語り合おう、良書をたくさん読もう、このようなメッセージは案外大事だと思わずにはいられない。

追記・要約

ベーコンが語る友情の主な効果。

一、友人と話すことで、心の高ぶり
やわだかまりを和らげて発散させるから。
ニ、知性に対して健全さをもたらすから。
三、誠意のこもった忠告があるから。
ニについては具体的には、
(対話によって)思想の闇や心の曇りを晴らし、混乱を鎮めることができる。
さらには、心に多くの考えを持っているならば、それを他者に伝えることで、才知や知性が明晰になり、ほぐれてくる。そうすることで考えがはっきりとなり、より整然としたかたちになる。最後に以前より賢くなる。
ベーコンは1時間の瞑想よりも、1時間の対話によって人間は賢くなると述べる。
三については、2種類あり、態度と仕事に関するもの。
心を健全に保つための予防薬は、友人の誠意のこもった警告だとも述べる。

参考文献  
渡辺義雄訳『ベーコン随想集』岩波書店

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