見出し画像

農業に限った話ではないが、無理に市場原理に拘る必要はない

 今日の日経新聞の社説は、「食料自給率の向上へ農政の転換を」というタイトルだ。読んでみると、確かにこれは一理あるかもしれない気はする。とはいえこの期に及んで、我々のような生産者の気持ちを、一ミリも汲み取らない文章にするのは、本当にいかがなものかと思う。いや、日経新聞は「消費者には安価な食料の提供が必要だ」と考えているのだろう。それはもちろん間違いではない。しかし、「農家や農業関係者も日本国民だぞ!」ということは、声を大にしていいたい。

 この社説でもっとも気になった点は、「米の価格は高止まりしているから、これを下げる政策をしろ」と、「畑作をもっと振興すべき」の2つだ。米農家の言い分としては、今の米価は安すぎだ。農水省の公式サイトを参照すると、一俵(60キロ)の米の平均価格(2022年11月の時点)は、ななつぼし13658円、ゆめぴりか16106円になっている。できれば一俵20000円は欲しいから、政府はそうするだけの補償はして欲しい。
 こういうと消費者から顰蹙を買ってしまうのもよくわかる。でも今直面している大きな問題には、農家の就業人口の減少と、農業従事者の高齢化も該当する。つまり、「農家は政府に甘えて補償を求めるな!」といわれたら、「それなら廃業が加速するしかありません」としかいえない。儲からない仕事はだれもやりたくはない。ただでさえ当事者たちの「農産物が安い」という意識が強く、後継者が減少しているのに、さらに安くしろといわれたら、その担い手の十分な数が確保できるわけがない。

 この問題を解決するには、無理に市場原理に拘らず、政府が生産者の収入を十分に補償して、尚且つ、消費者が安価な食料を購入できるような政策を取るしかない。そのためには、社会的共通資本を優先した上で、大規模な反緊縮財政を施行する必要がある。そして将来的には、農産物等の関税はかなり引き上げないといけない。ミニマムアクセス米のような、関税対象外の輸入品も極力減らすべきだ。もちろん急には無理といえる。消費者に対する負担が大きすぎるからだ。
 だがそもそもの問題として、農林水産業に過度の経済自由主義的な政策を導入すると、自然環境に深刻な被害を与える危険性がある。それを放置していたら、世界的に食料供給力が破綻する。私は以前の記事では、自由貿易の過度な推進のせいで、ブラジルの大きな森林破壊もたらす事例について触れたことがある。日経新聞もそういう問題について、スポットライトを当てて欲しいなとつくづく私は思う。