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「百川」に行ってみたいです、わたし。




落語、好きですか?
わたしは大の落語ファンの1人です。
ハードに仕事したあとはちょっと息抜きに、
録画しておいたご贔屓噺家さんのとっておき演目を
すこし大きめの音量で聴いたりして。
噺家さんの面白さと噺の面白さの両面から落語を楽しんでいます。


さて、そんな落語ファンならば一度は聞いたことがあるかもしれない演目、
「百川」。
噺の内容は、江戸の料亭「百川」(ももかわ)に奉公する
田舎者の訛りコトバを、喧嘩っ早い江戸っ子たちが勘違いしてしまい
大騒ぎになるというなんとも楽しい「古典落語」。
わたしがよく(カセットテープで)聞いていたのは、
昭和の二極の名人「古今亭志ん生」、「桂文楽」、
どちらの「百川」も甲乙付け難い楽しさです。

実はこの「百川」は
江戸時代の日本橋に実在した大きな料亭の名前なのだそうで、
この落語が架空噺ではなかったということを知って驚きました。
そのことを知ることができた本が「幻の料亭「百川」ものがたり」です。
著者は「食」や「発酵」について面白い著書が多い小泉 武夫 氏。

この本には当時の繁栄していた料亭百川の様子、
訪れた食通たちが繰り広げた贅沢な酒席と
食の楽しみ方や逸話、宴で提供されたメニューなど、
冷蔵庫がなかった江戸時代、どんな材料で、どんな調理法で
どんな名前の料理があったのかなど興味深い内容です。
明治の頃に衰退するまでの料亭百川、
幕末には黒船一行を迎える饗宴を任されたのだとか。
「百川」ってすごかったのね!。
先に落語噺を知っていたので余計に感心。

本を読んでわかったのは、江戸の名だたる料亭では
お客は店に上がると先ずお風呂に入ってさっぱりします。
それから運ばれてくる料理を楽しむそう。
今で言う日帰り温泉のようなイメージでしょうか。
百川はそんな立派な料亭だったようです。

お風呂から上がって舶来ものの珍しい調度品のある広間で待っていると
美しい器に盛られて出てくる酒菜の数々。
本の中に描かれているその献立を読んでいるだけで涎が出てきます。
食材については現代ではそれほど珍しくない食材ですが
しかし、江戸の空気の中で、江戸の光の明るさの中で、
これらの食体験ができたらどうでしょう。

百川の入り口や畳を踏みしめた弾力感、ふすまを開ける音、
板の間廊下の軋みや絨毯の影、ギヤマンの器の輝きや
料理された魚や野菜の色調などに思いを馳せると、
江戸時代を憧憬する者の1人としては
どんなに素敵な三つ星レストランよりも
百川行こ!と、思ってしまいます。

当時のお金を現代に換算すると
料理の値段はお安いコースで1万6千700円くらいなのだそうです。
高いコースで3万3千400円くらい。
この1番高い価格の献立にはスッポン料理が出たのだとか。
稼いだお金を「料亭百川」で楽しむなんて。
贅沢だなぁ。いいなぁ。

奥座敷では

「シジンケンノ カケーニン」で「ヒトハダ脱いで」「グッと飲み込んで」。。

当時は作物飢饉の影響で地方出身の人が
仕事を求めて江戸へ出てきたのだそうです。
もしかしたらここ「百川」にもそんなバイトさんがいたのかもしれません。
地方の深い訛りコトバは江戸っ子たちに大きな勘違いをもたらして、
百川の奥座敷では大騒ぎが聞こえてきます。

それを聴きながらタイムスリップしたお客は
江戸の香りと音を、そして光を楽しむのです。

こんな江戸の「百川」に行ってみたい、わたしなのでした。




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