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失恋宇宙エレベーター(短編小説)


心ときめく夜空の流れ星は宇宙空間の天体じゃなくて地球の大気中の発光現象なのです。

じゃあ  僕の  この  恋は?

宇宙にいられる時間は技術の進歩でどんどん長くなったけど、

恋はそれなりに終わった。

「優しいだけじゃ物足りない」と君はあのとき言った。

そういう感じのフラれかたで良かった。

人工雨システムが故障した日で土砂降りだった。

失恋を引きずりまわす準備はできてた。

フラれたあとに男がしそうなことは早々に終えた。

例えば、昭和とか平成とか令和の人たちの失恋ってどんなだったんだろう。

地上ではこれ以上失恋を引きずれそうもないので上を目指すことにした。

君とは宇宙で出会った。Love at first sight

思い出の場所を巡ろうと思った。

君への邂逅軌道を逆に辿る。without you

上空400kmへ。

宇宙エレベーターに乗ればすぐだ。

あのときも君と乗った。

スペースポート横までタクる。

避けたつもりが週末。

乗り場は混み合ってる。

「上へ参ります。上でございます」

宇宙エレベーターガールさんの呼びかけに手をあげて合図。運良く閉まりかけの空いてるやつに滑り込みで乗れた。

扉が閉まり切る。

定位置の宇宙エレベーターガールさんと僕、そのほかに週末を宇宙ホテルで過ごすっぽい夫婦と、無重力スポーツクラブに通う少年二人といったところ。

宇宙エレベーターが上昇を始める。without you

でもすぐに、対流圏の終わり辺りの空中乗り場で一旦止まって扉が開く。

「上へ参ります。上でございます」

誰も乗ってこない。

このあとは成層圏→中間圏→熱圏へとノンストップで上昇する。

扉上の高度表示を見上げて、さらにその横の画面に映る宇宙天気予報をぼーっと見ながら立ってた。

後ろの夫婦の会話が聞こえた。

「乗ってすぐ、5階でって言いそうになったよ。会社が5階だから癖で」

「やな癖ね」

アハハハハな二人。

つづいて、横の少年たち。

「ねぇ、宇宙食持ってきた?」

「うん、ママの手作り」

「愛情が詰まってるね」

「うん、愛情は無重力でも重さ変わらないからね」

「でもさ、愛ってなに?」

「大っっっすきのことだよ」

「そっか、大っっっっすきのことか」

「ちがうよ、大っっっっっすきのことだよ」

「なるほど、大っっっっっっすきのことだね」

アハハハハ。

扉の横でかしこまった姿勢の宇宙エレベーターガールさんも微笑んでいる。

失恋を引きずっている僕だけがこのふわふわした雰囲気のエレベーターにとって地上への強力な引力になってしまっている。

愛は地球を救うと言うが、おりからの宇宙婚ラッシュでブライダル関連モジュールが爆増したおかげで軌道上に兵器を置くスペースがなくなったというのをニュースで見た。

ガタン、プシュー。

なぜかそこで、宇宙エレベーターが止まった。目的地点まではまだ到達していないはずた。

耐火のことがあるから外は見えないつくり。

みんな驚いた顔をしている。

唯一、宇宙エレベーターガールさんだけが笑顔で扉を開くボタンを押して、言った。

「ウェイでございます」

──ウェイ??

扉が開いた。その外はすごく眩しい。なんかノリのいい音楽も聴こえてくる。

どうしていいかわからなかった。

「ウェイへ参れます」宇宙エレベーターガールさんは開延長ボタンを押して僕を見ている。

他のみんなも僕が降りるだろうと言う目線を送っている。

僕はウェイで降りるんべきなんだろうか

戸惑っていると、扉横の彼女が頷いて、扉は閉まった。閉まりぎわ、向こう側からアメリカンホームドラマのがっかりの声みたいなのが聞こえた。

「上へ参ります。上でございます」

再び元の笑顔で彼女は手の甲をこちらへ向けた。

宇宙エレベーターが上昇を再開する。

さっき変な空気になったのも元に戻った。

もし君と乗ってたら、ウェイで降りたか考えかけて、やめた。

体が浮いた。

君のいない宇宙の週末まであと少しで到達しそうだった。





                     終

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