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美しい悪魔

先日、ヤフーオークションに谷崎潤一郎の『悪魔』の箱付き初版本が出品されていた。

『悪魔』は『刺青』に続く谷崎の単行本で、籾山書店から発売されている胡蝶本である。
この胡蝶本は全部で24作あり、これを全て収集している人というのはいるようだが、
美本、となると中々に難しい。

私は背表紙の欠けた『悪魔』を持っていた。もう処分したが、購入時は60,000円で、結構値が張ったが、然し、『悪魔』はそれくらいするので、まさに悪魔的価格と言えるだろう。
今もちょうど、日本の古本屋に45,000円の『悪魔』が……。


『悪魔』は紹介されるときに、大体クライマックスである女性のかんだ塵紙についた洟水をぺちゃぺちゃと舐めて秘密の鼻園に耽るという、倒錯的シーンに収斂されている。まぁ、いつもの谷崎で変態の小説だが、今はもっと変態の小説で世界は埋め尽くされているので救いがない。
ちなみに、『悪魔』には続編があるが、こんなものの続編に意味があるのだろうか……。

胡蝶本は傷つきやすい。美本は少ない。箱もないものが多い。箱やカバーというものは
将来的に数十万円の価値が生まれる場合があることを、皆様も夢々覚えておいて頂きたい。

そして、本題であるそのヤフオクの『悪魔』であるが、私は衝撃を覚えた。何たる美しい『悪魔』!

※ヤフオクから転載しました

とてつもない美本で、極美本の範疇に入っても宜しい。
鮮やかな色彩の悪魔は、まさにサキュバスの如しで私に落札せよと命じてくる。
恐ろしいアクマ……。抗えないその囁きに、私は震える指先でボタンに触れる。が、私は必死に理性を取り戻そうとかぶりを振ると、自らの指を折ることによって(嘘)このアクマとの闘いに勝利し、傍観者に戻ることが出来たのである。
アクマは欲しいが、AKUMAは哀しすぎる……。

さて、この『悪魔』は207,000円で落札されていた。この闘いに身を投じていたのならば、恐らく私は死んでいただろう……。
本1冊で20万円、本1冊で50万円、本1冊で100万円、或いは本1冊で1000万円。
書痴、とは全てを放擲してまでも欲しい本を手に入れようと私財を投じるものだが、生憎私は書痴ではない。然し、何れ来るであろう、本当に欲しいあの1冊を手にするために、私は斯様な『悪魔』たちに唆されてはならないのである。

でも、ああ、いいなぁ。あんな美しい『悪魔』にだったら、身も心も捧げても良かったかもしれないなぁ……。

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