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アキレスと亀

『イリオス』という漫画をジャケ買いで購入。

以前も書いたのだが、私は基本的には、①ジャケ買い ②フィーリングを重視、してコミックを買う。

『イリオス』は帯にある、ギリシア神話×アウトロー、そして『嘘喰い』のバクのようなキャラクターとしか情報がなかったが、買ってみた。

ヤクザ漫画である。だが、ただのヤクザ漫画ではない。キャラクターはギリシア神話の人物の名称であり、主人公の亀山パリスと半神と呼ばれるアキレスとの命がけの鬼ごっこが1巻の粗筋である。

亀山パリスは九州の亀松組の若頭だが、彼は東京の朱維屋会あかいやの武闘派幹部の妻であるエレネをひと目見て欲しくなり、寝取った上で連れ去ってしまう。
無論、幹部は激怒し、朱維屋会の会長である崇目あがめムネオ(アガメムノン)は逃げたパリスに対して最強の刺客であるアキレスを放つ。

アキレスは人間離れしており、ライオンを捌いてステーキにして食べたり、車を破壊しながらその上を走り追いかけてきて(さながらターミネーターである。ルックスもターミネーター+『トロイ』のブラッド・ピットのアキレスを彷彿とさせる。モミアゲが鎧兜のようだ)、さらに恐ろしいほどの握力や、アキレスの槍と言う、金属の棒を槍投げよろしく大砲のように投げてくる。

忘れられない珍作『トロイ』
ピーター・オトゥールの目、宝石かいってくらい碧いよね。若干『ミッドサマー』のビョルン・アンドレセン感が…。

この化け物からパリスは命がけで逃げるわけだが、まさにアキレスと亀のパラドックスをアクション漫画にしているという意欲作である。
アキレスと亀は哲学者のゼノンのパラドックスで、アキレスが亀を追いかけて、1秒で100メートル走るアキレスと、1秒で1メートル進め亀で考えた時に、理論上はアキレスは亀に永久に追いつけないという頭のおかしくなるパラドックスである。

その理論を映画化したのが北野武監督の『アキレスと亀』だが、今作ではビートたけし演じる真知寿まちすという少年が画家になることを志し、作品を作り続けるが、然し成功は出来ず、家族を不幸にし、それでも芸術を求め続けて、然し評価されず、人道や親の道を踏み外し芸術に傾倒するが、然しそれでも評価されない…という、才能のあるんだかないんだかわからない人がいくら頑張っても永久に評価に追いつけないというような映画だったが、真知寿はマティスである。

北野武はインテリで、数学に非常に興味があり詳しいため、映画も難解であるが、この落とし込み方も美しく格調がある。
たけし映画は品があるのである。

で、この『イリオス』が、結論から言うと、大好きである。
こういうセンス・オブ・ワンダー的な漫画を楽しめる瞬間があるからジャケ買いが好きなのである。

然し、私は漫画は大体ピークは8巻〜15巻に来る説を推すものである。
と、いうのも、基本的には世間一般で商品として流通している漫画は面白いものばかりである。当然である。才能を認められた者たちが渾身の力で描いているわけであるから。
世の中につまらない漫画があるとすれば、それは惰性で続けられている旬の過ぎた、盛りの過ぎた作品である。
そういうものを買うよりも、まだあまり出ていない新しい作品や、新人作家の作品こそ、嬉しい出会いや新鮮な驚きがある。

この漫画はめちゃくちゃおもしろかったのでオススメである。
普通に人の顔面が潰されたりするので、そういうのが苦手な人はダメだけど〜。


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