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森の小さな奇跡

むかしむかしのこと。

家の近所にある森の中に、それはそれは小さな村がありました。
その村に住む人々は、自然の恵みを糧とし、日々の暮らしに小さな喜びを見出し、心豊かに生活していました。

ある日のこと。
村の外れに住む老いた魔法使いが、村人たちに招かれてやってきました。

彼の名前はエリオット。

長い間森の生き物たちと共に過ごしてきた賢者です。
村人たちはエリオットに、心の癒やしとなる魔法の物語を求めました。

エリオットは微笑みながら、静かに物語を話し始めました。

「昔々、この森には特別な動物たちが住んでいた。
彼らはそれぞれに不思議な力を持ち、森の中で平和に暮らしていたんじゃ。
どんな不思議な力かって?
例えばウサギは、地面をひと蹴りするだけで、どんな高い木でも飛び越えることができた。
鳥はその澄んだ歌声で、心を乱した動物をなだめることができたんじゃ。
今森にいる動物たちは、その不思議な力を受け継いでおるんじゃろうな。
動物たちはみな、幸せじゃった。
明るく温かい太陽、豊かな自然の恵み。
何の束縛もなく、自由な暮らしを満喫していた。
もちろん、喰うか喰われるか、というのはあったらしいぞ。
そんなある日のこと、森にひときわ明るい輝きが差し込んだんじゃ。
太陽の光が一点に集中し、神々しく輝き、照らす。
それは、新しい生命が生まれる予兆だった」

村人たちは興味津々で聞き入っています。

「その輝きの源は、小さな水晶のような瞳を持つ鹿だった。
もちろんその鹿も不思議な力を持っていた。
何より不思議だったのは、その鹿は生まれながらにして名前を持っていたんじゃ。
鹿の名はアリアでした。
名前からわかるように、メス……いや、女性じゃったんじゃな。
彼女が森に現れると、森の生き物たちは皆、彼女の周りに集まり、彼女の愛と癒しを受け受け取ろうとした。
そう、彼女は生まれながらにして森の女王、そして母であり姉でもあった。
そんな彼女が生まれたことを、森に生きる物たちは、心から歓迎したんじゃ」

村人たちは、アリアが森に平和と喜びをもたらしたことを感じます。

「しかし、ある日、森に暗雲が立ち込めた。
どんな平和も長続きはしないのが世の常。
平和を乱すのは身の程をわきまえない欲か。
あるいは、自分を守るための牙か。
森に訪れたのは、邪悪な魔法使いじゃった。
おっと、言っておくが邪悪な魔法使いといっても、わしとは違うからな」

賢者の冗談に、クスクスと笑う村人たち。
満足げな顔を浮かべた賢者は、話をつづけました。

「その魔法使いはアリアの力を欲しがった。
森の生き物たちを愛し、慈しみ、そして守る力。
そのすべてが魔法使いにはない力だったからじゃ。
だが、アリアは全力で魔法使いに抵抗した。
魔法使いに力を奪われれば、森の生き物たちがどうなることかわかったものじゃない。
平和な森の暮らしも、失ってしまうかもしれない。
そう思うと、魔法使いに負けるわけにはいかなかったからじゃ」

ゴクリ、と村人たちは唾を飲み込みます。

「魔法使いに必死に抵抗するアリアの姿を見た森の生き物たちも、アリアを助けるために戦った。
ウサギは、その強靭な脚で魔法使いを蹴飛ばし、鳥は、大きな声で魔法使いに向かって叫び、イノシシは大きな巨体で体当たりをした。
そしてアリアたちは、愛と勇気の力で魔法使いを打ち破ったのじゃ!」

「わーっ!」という歓声が響く。

「だが、森の生き物たちも無傷というわけにはいかなかった。
それぞれが持つ不思議な力を失ってしまったのじゃ。
ウサギは高く飛べなくなり、鳥の鳴き声は小さくなった。
イノシシの体当たりも山を砕くほどではなくなった。
それでも、森の生き物たちは平和を喜んだ。
太陽は暖かく、森はたくさんの恵みをくれる。
そんな、当たり前のことが本当に大切だと気が付いたからじゃ」

村人たちはエリオットの物語を静かに聞いている。

「わかるか?
当たり前だと思っていることは、決して当たり前じゃないんじゃ。
森の恵みも、太陽の暖かさも、この幸せも……。
ある日突然奪われることもある。
だから! 当たり前を当たり前にするために、常に努力しないといけないんじゃ!」

村人たちはエリオットの話に感動し、心が温かくなりました。
そして、この平和な日々を続けるために、自分たちに何ができるのかを話し合いました。

彼らは互いに微笑み合い、共に森の奇跡を讃えたのです。

村人たちはエリオットに感謝しました。
そして、森での冒険や奇跡を夢見ながら、新たな一日を迎えるのでした。

<了>


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