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その日の気持ちも映りこんでいる、スマホの写真たち。

SNSではプライベートで、ご飯を撮って
投稿するということが今は当たり前だけれど。

2022年からTwitterを始めた頃はちょっと
慣れていなかった。

昔はまわりの若い子たちはいち早くみんな、
Twitterやインスタをやっていたので。

お昼に一緒に行くと、今まで喋っていたのに。

お料理が届いたらぷつんと静かになる。

被写体を美しく撮ろうと彼女たちの
眼差しは必死だった。

食べる前に写真を撮ってそれをポスト
するって不思議な行為だなってSNSやらない
わたしはずっとそう思っていた。

不思議だと思っていたことにわたしも馴染み
つつ今はあるのかもしれない。

今月はいろいろな方とごはんを食べてお酒を
呑んだりした。

どの時間もかけがえなかったし、
同じように待ち合わせしたとしても二度と
同じ時間は戻ってこないだろうという宝物に
似た時間を過ごした。

先週の火曜日は新宿にいた。

その時もお店も二軒ほどはしごしたけれど。

ごはんの写真は一枚もなかった。

外の風がつめたいぐらいだったけど
一軒目でほどよく温まっていた体には
とってもちょうどよく感じていた。

ビル群がきれいで、思わず写真を撮っていた。



軽く酔っていたから、うまく撮れなかったけれど。
あの夜、スマホを通して見ていた景色の中に
わたしだけが知っている気持も一緒に
写り込んでいるみたいな気がする。

そしてその日は6時間も歩いたりご飯
食べたり呑んだり、歌舞伎町で会社員の
はっちゃけたパフォーマンスを見て
音にまみれていたしたのに。

撮ったのはこの一枚だけだった。

記憶の中では、たくさんの色に包まれた
景色が残っている。

そんなことを書きながらずっと前の日の
風景を思い出していた。

最寄りの駅が、巨大迷路のような趣に
なっていた時。

工事中なので、区切られたスペースに
沿って歩かないと、駅にも店にもたどり
つけない。

逢魔が時と呼ばれそうな時間帯に駅の
コンコースを、歩いていたら、何人かの
高校生らしき女の子たちが、
空に向かってスマホをかざしていた。

つられてわたしも空をみる。

満月がうっすらとでていた。

満月をみんながいろいろなアングルで
写している。
背中からしか彼女達のことはみえなかったけど。真剣だった。

大げさに言うと。
アスリートが、今までのおそろしく辛かったトレーニングの結果をこの一瞬で、叩き出そうとしているかのような。本気の目をしていた。

いつだったか。
カメラマン森山大道さんのエッセイの中で、写真を撮ること
についての言葉を読んだことがある。


<シャッターボタンの微かなストロークのうちに、個の経験や記憶や情感が当然すべり込む>

シャッターを押す行為は、ほとんど放電に近い

とも表現されていた。

その時の雑踏は

いつにもまして、複雑な入り組み方だったし。
人とぶつかりあいそうについついなりそうだった。
その度に舌打ちされそうな、危うさだったけれど。
ありとあらゆる音の洪水や行き交う人達の、混沌
としたノイズに近い会話の中で、

そこにいる誰よりも、たぶん彼女たちは、いちばん
静かなたたずまいをしていたような気がする。

そしてその姿にわたしはくぎ付けになっていた。

あ、満月って思って写した感じじゃなくて。

なんだか、ほんとうにまっすぐゆっくり時間を
かけて、月を狙っていた

それはまるで放電に近かったのかもしない。

後ろにつづく道行くたちは、月ではなくてもっと
違うものが、彼女達だけに見えているんじゃないか?
という感じで。

なんども空と彼女達を振り返りながら確かめつつ
歩いていた。

でもそこには、満月しかなかった。

路上を歩みながら、満月をみあげること。

それって。
たぶん、すさまじい競争や喧騒のなかで、
生きている
そこを歩くみんなのこころの中に、
月の光がそっと
分け入ってゆくような。

そんな感覚に陥ったんじゃないかと
想像した。

雑踏は、世の中でいちばん嫌いな場所だけど。
その渦中に巻き込まれていると。
なんとなく、なし崩し的な気持ちと同じ
ぐらい熱量も感じて、歩いているうちに
元気が戻ってくる場所だったりする。

殺伐としている人ごみであっても、おなじ
環境を強いられているという意味では、
ユアサイド的な気分になる。

おわることのない日常が、とりあえず、
今日もそこにあることへのささやかな
安堵感なのかもしれない。

彼女達どうしてるかな? ってその通りを歩くと時々思う。

真剣に月を黙ったまま撮っている姿って、ちょっと
カッコよかったなって。

昨日たくさん料理の写真を撮っていたことに今朝気づく。SNSやるまでご飯のこと撮るなんてなかったから戸惑ったけど、今は大切な時間の記憶。先週は新宿のビル群と空たけを撮っていた。たくさんの写真も1枚だけの写真も、どちらも大切な時間。出会ってくれてありがとう

Xのわたしのポストより。


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