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恋してなかったはずなのに、10年後にふられた気分だった。

今想えば、長い物には巻かれろ式で

はじめてのバレンタインの日を迎えた。

小学4年生だったわたしは、内本君に

チョコをあげた。

天パの内本君にちょっとだけ、いっしょだね

そのくるくるっとした髪の毛って、

勝手にシンパシーを感じていたの

かもしれない。

内本君は、クラス一の人気者だった。

わたしは、内本君に心寄せている

わけじゃなかった。

内本君に、近くのコープで買ったチョコを

あげた。

母親にもっとちゃんとしたもの買ってきたら

いいのにって言われるぐらいの

ふつうのハート型のチョコだった。

内本君の机のうずもれてゆくチョコの

山の中にじぶんのチョコとちいさなメモを

入れておいた。

たぶん、名前か何かを書いたんだろう。

ほんとうに好きな人が誰かなのか

みんなにバレなくてよかったって

その時思った。

わたしが好きな子はいたのだけど。

その子はそんなに人気がなかったので

わたしがチョコをあげたらバレてしまう

のではないかと、好きだと言えなかった。

人が好いたり嫌ったりとかはあまり

興味がなかったし。

じぶんの中だけで好きになっていたら

いいって思っていた。

その子は高野君といった。

高野君はビーバー君と言われていた。

ジャスティンに似ているからではない。

あの生き物のビーバーに口元が

似ていたからだった。

わたしはビーバー君と呼べなかった。

高野君が、嫌がってるじゃないかって

心の中でいつも怒っていた。

そして高野君のことをわたしが好きな

ことはやがてバレるのだけど。

両想いってこういう感じなんだって、

ふーん悪くないねっていう気持ちでいた。

高野君の悪口はゆるさんよっていう

キャラになれたことが不思議だったけど。

これが人を好きになるっていうことなのかと

思って、ひとつだけおとなになった気持ちが

した。

おとなって、誰か自分以外の人を好きになる

人達のことだと勝手に思っていた。

小学校を過ぎて、高校もばらばらになって

大学生になった頃。

高野君とはもうすでに離れ離れだった。

近くの駅のバス停で、すごく懐かしい顔を

みつけた。

髪型に見覚えがあった。

内本君だった。

青学に行ったんだよって風の噂に聞いていた。

内本君だってわかったのは髪型だった。

天パのままだった。

ストパーとかじゃなくて天パのまま

くるくるした髪を風になびかせて

歩いていた。

しいていえば、こんな感じだった。

菅田将暉さんより顔はもう少し甘いけど。

そして隣には、あまりにすてきな

すらっとしたほんとうにファッション雑誌から

飛び出てきたような女の人と手をつないで

内本君が歩いていた。

こっちに帰ってきてるんだって思いながらも。

とっても彼らがお似合いで。

わたしはなんだかその時、ふしぎな感覚に

陥った。

恋も未熟なままだったけど。

はじめてのチョコをあげたのが内本君だった

のは好きな人を悟られないためだったはず

なのに。

大阪に帰省している内本君を見た時に

失恋したような気持ちになっていた。

そしてそのヘアスタイルもちゃんと

天パを隠すことなく天パのままだった

こともわたしを揺さぶった。

わたしは天パが恥ずかしくて、ストパー

かけてまっすぐな髪の毛になって

これでみんなと同じだって安心していた

から。

ちょっとそういうまわりに流されている

じぶんのことも恥ずかしかったのだ。

およそ10年かけて、わたしはふられた気持ちに

なっていたことを、今ふいに思いだしていた。

好きな人に好きと言えないまま大人に

なったけど。

ふられた気持ちのあの心がしくしくする

ような感じはちょっと甘くて痛い記憶

だったりするのです。

あれがハツコイ? 恋していないのに ふられた気分
あれが最後の恋? ラストオーダー まにあうのかな

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