眠り

 お水をね、ひたひたになるまでついで、そうして飲めばいい。ちょっとだけ臭い、もしかしたら臭くないかもしれないけど、とにかく水道のお水を。一杯二杯と喉を鳴らしたら、そのうちトイレにいきたくなる。そしたらお手洗いにいけばいい。そこで自分を、存在を聞けばいい。生きてる音を。戻るときはまたお水を一杯でも半分でも飲んで、それからお布団に倒れ込めばいい。まぶたを閉じることだけが、意識の断絶だけが眠りじゃない。そうやってお水を飲んで用を済ませて、またお水を飲んでお布団に倒れ込んで、眠れないって、おしっこってつぶやくことだって、確かに眠りなんだから。夢は、まどろみは、自己との深い触れ合いだけど、夜のあの、言葉にできない、誰にも伝えられない瞬間もまた、痛いほど強烈な接触に違いない。存在はいつだって、密やかに息をしてる。一切はこの、どうにもならない眠りのなかにだってある。お水を飲もう。飲んで、聞こう。飲んで、話そう。話しながら、唇を、枕をシーツを噛みながら、こぶしを握り締めながら、震えながら、トイレにいきながら寝よう。開いたままのまぶたも、止まらない言葉も、暴れ狂う内奥も、すべては眠り。

                               (了)

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