小さな石よ

 ざらざらした、尖ったところのある小さな石よ。聞いてください。本当に私には、生活する、生きていく力がないんです。どうしてでしょう。人は努力を説きます。命じます。ですが、努力できることさえ偶然じゃないかという事実については触れません。殴られずに生きていられることも、殴らずに生きていけることも、たまたまではありませんか。あなたなら分かってくださるでしょう。あなたがざらざらしていることは偶然で、恐らくカラスにくわえられて運ばれてきたことも偶然なんです。そうして私がベランダであなたを見つけ、こうして座椅子にお尻を下ろしてひざを立て、かけているこたつ布団にあなたを載せて、おしゃべりしているのだって。運命や必然は、未だ私のなかで証明されていない以上、私は偶然という神にひざまずくしかありません。ですがどうして私は、こんなにも脆いんでしょう。自力で生きていくことができないんです。自分の体を支えては歩けません。あんまり重くてだめなんです。今生きている人は、たまたま生きられる、生きていける人であっただけで、生きられない人は、みな等しく死にました。少なくとも精神的には死にました。あるいは自ら、あの深淵へと歩いていきました。生きろと人々は叫びますが、生きられない個体として産み落とされた者は、いったいどうやって生きればいいんでしょう。頼れと言うんですか。ですが、頼れるかどうかもまた運です。現状が破られれば、私は死ぬほかありません。なにゆえ生きていけるでしょう。自己責任ですか。なんて残酷な言葉なんでしょう。環境、性格、個性。選択の彼岸にある一切は、なんて強烈なんでしょう。それにしても小さな石よ。あなたは聞いてくださる。私に言葉を返してくださる。肯定も否定も、疑問も答えも。私はあなたとこうして話せて、この夜を、どうにか生きることができそうです。あなたは冷たく温かい。あなたと話せたのも、まったくの偶然です。その偶然を、幸運だと思えないことも、幸運に感謝できないことも、あなたはちゃんと聞いてくださる。私は運を誇れないし、誇る気にもなれません。本当にどうして私は、あなたの前だとこんなにも饒舌でいられるんでしょう。あなたともっとお話ししたい。夜をともにいきましょう。闇はまだ、始まったばかりです。明けない夜が来たんですから。

                               (了)

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