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ちいさな神様

14年前の夏の夕暮れ時のこと。
閉店後の片づけをしていると、店のドアが開きました。
CLOSEDの看板、出したはずだけれど……と思いながら見ると、そこにはランドセルを背負った一人の女の子が立っています。
以前来店したことのある、ちいさなかわいい女の子。

不思議に思ったわたしが、「こんにちは。どうしたの?」と尋ねると、その子が言いました。

「あの、前におばあちゃんとここに来ていたんですが、急にお店が閉まっちゃって、すごく寂しかったけど、またお店が始まって、すごく嬉しいです!」

実は14年前の冬から夏にかけて、わたしの店は訳あって半年間の休業をしていました。女の子のこの来訪は、ちょうど再開した直後のこと。
当時まだ名前も知らなかったその子は、学校の帰り道にわざわざその一言を伝えるためだけに、道路から20mも奥まったわたしの営む喫茶店へたった一人で訪れてくれたのです。

傷つき迷い不安を抱えたまま、崖から飛び降りるような気持で店を再開させたばかりのわたしにとって、女の子のこの言葉は、まるで神様が励ましてくれたようで胸が熱くなり、もう少しで彼女を抱きしめて泣いてしまうところでした。
かろうじてその衝動を抑え、お礼を言いながら小さなチョコを握らせるという行動におさめたわたしですが、当時のどんな励ましよりも大きな原動力を得て前に進むことができました。

あのちいさな神様は、今はもう小さくないけれど、14年前と同じまっすぐな瞳で、立派な社会人として広い世界へと美しく羽ばたいていきました。
もしも彼女が人生の岐路に立って迷い悩む時があれば、どうか素敵な神様があらわれますように。
わたしもいつか誰かの神様になれるよう、精進したいと思います。


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