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【第1〜3回】『ギリシャ語の時間』『ロング・グッドバイ/長いお別れ』『西瓜糖の日々』

こんにちは。
文学ラジオ空飛び猫たちです。
2020年にお送りした文学作品を紹介していきます。

硬派な文学作品を楽しもう!をコンセプトにしたラジオ番組です。毎週月曜日7時にpodcast等で配信しています。ラジオをきっかけに、文学作品に触れていただけると嬉しいです。

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【第1回】『ギリシャ語の時間』ハン・ガン著 〜お互いの時間の最先端で人々は出会う〜

あらすじ
ある日突然、言葉を話せなくなった女。すこしずつ視力を失っていく男。女は失われた言葉を取り戻すため古典ギリシャ語を習い始める。ギリシャ語講師の男は彼女の“沈黙”に関心をよせていく。ふたりの出会いと対話を通じて、人間が失った本質とは何かを問いかける。心ふるわす静かな衝撃。ブッカー国際賞受賞作家の長編小説。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
おそらく3分の2ぐらいは彼と彼女の過去の話であって、2人が抱えている孤独が浮き彫りになります。そして2人はお互いの状況を想像するかしかない状況で出会います。特に印象的だったのは、p217あたりから使われている「彼は~を知らない」の連発。人は、お互いの状況がわからないまま、想像するしかない状況で、(彼女は彼の顔の古傷からかつて何があったか想像したりしていた)お互いの時間の最先端で知り合っていく。そのことを描いている作品であると思いました。この点で、ハン・ガンさんの生きることに対しての切実さのようなものを感じました。
孤独について考えたり、人と出会うことについて考えている人に読んでもらえると、ひとつの答えを得られるように思います。明るい話ではないけど、決して閉ざされた話ではないので、そういう少し光が差すような、心が開いていく瞬間が好きな人には是非読んでもらいたいです。

ミエ
彼も彼女も傷が深く、とても幸せになれそうにない、と読んでいて思いました。彼は目が見えないからよく確かめようとすることで、暗闇の中に閉じこめられます。彼女はもともと暗闇に生きていた。そこで二人は出会います。それまでギリシャ語の時間で同じ空間にはいましたが、そこは暗闇でなく、開かれた世界であり、そこには彼女自身が認める彼女は存在していなかったと思います。暗闇の中で、二人はお互いが存在していることを確かめあうことができます。とても幸せになれそうにないと思っていた二人が、深海から浮上していくような、希望を感じる小説でした。
これほどテンションが低い二人の主人公はいないのではないかと思います。派手なことは何一つ起こらないし、不幸なエピソード満載だけど、美しい文章で淡々と描かれる二人の人生の交差を読むと、静かに心が揺れ動くと思います。

【第2回】『ロング・グッドバイ/長いお別れ』レイモンド・チャンドラー著 〜ギムレットにはまだ早い〜

あらすじ
私立探偵のフィリップ・マーロウは、億万長者の娘シルヴィアの夫テリー・レノックスと知り合う。
あり余る富に囲まれていながら、男はどこか暗い蔭を宿していた。
何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。
しかし、やがてレノックスは妻殺しの容疑をかけられ自殺を遂げてしまう。
が、その裏には悲しくも奥深い真相が隠されていた……

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
フィリップ・マーロウが友人テリー・レノックスの死について、自分自身で答えにたどり着き、その事実に向き合ったときの哀愁がたまりません。いろいろな圧力がある中、死んだテリーの無罪を信じて動いたマーロウが持っていただろう「期待」。それがある意味、裏切られる形になってしまいますが、そこに男の性のようなものが見えて、強い憧れを抱きました。決して彼が報われるわけではないのに。報われないことに惹かれるという不思議な感情を味わうことができるのも、この作品の良いところかもしれません。きっと人間臭さのようなものに惹かれているんだと思います。今回清水訳は3回目、村上春樹訳は2回読んでいて計5回目の読了でしたが、毎回読み終えたときのやるせなさのようなものが好きで、ぐっときてしまいます。
男性同士の友情に弱い方や、ハードボイルドな雰囲気、自分を曲げない主人公が好きな方には是非!分厚いけど読みやすいので、割とさくさく読めます。章も細かく分かれているので、ちょっと読んで続きは明日にすることもしやすいと思うので、長さで躊躇している人はとりあえず手を出しても大丈夫です。

ミエ
エンタメとして本当におもしろい小説だと思っています。最初から最後までスリリングで、1950年代に書かれたものですが、今でも新鮮に読めると思います。主人公のマーロウの会話とか、次々に場面が転換していくテンポの良さとかもいいのですが、個人的には、テリー・レノックスが抱える影というか、哀しみが忘れられないです。小説の舞台では華やかな世界にいたのに、過去には戦争の重い影があって、栄光と哀しみの両方を抱えて生きている姿。まっとうには生きれないけど、それでも生きていこうとしています。だから事件が起きて、主人公のマーロウが登場するわけですが。この本のあとがきで翻訳された村上春樹さんが『グレート・ギャツビー』に重ねて解説しているのでぜひ読んでほしいです。
アドラー心理学が好きな人はおすすめです。主人公のマーロウはとことん現実的な人間で、自分は自分、他人は他人と、つねに物事を切り離して考えています。もうそれを徹底しています。警察や裏社会の人間とやり合うときも絶対に事実から逃げないし、小さな嘘とか小さな違和感を見逃さない。見逃さないから、ピンチになったりするのですが、マーロウは自分の問題だと思ったらどんなことにも信念を持って立ち向かいます。その姿がたくましくて、ダンディーで、『嫌われる勇気』とかに影響を受けた人には、そんなマーロウの生き様が心地いいと思えるんじゃないかと思います。それと次は、ロマンチストな人です。『グレート・ギャツビー』のような華やかさと重くのししかる影をはらんだ作品で、想像力をかきたてられます。最後まで読むと、すごくいい余韻に浸れると思います。

【第3回】『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン著 〜アイデスと忘れられた世界〜

あらすじ
コミューン的な場所アイデス〈iDeath〉と〈忘れられた世界〉、そして私たちと同じ言葉を話すことができる虎たち。澄明で静かな西瓜糖世界の人々の平和・愛・暴力・流血を描き、現代社会をあざやかに映した著者の代表作。

感想・どんな人に読んでもらいたいか
ダイチ
とにかく文章が詩的で、素敵すぎます。不思議な世界設定がすごい。西瓜糖で出来た世界ってどういうこと笑 いろいろと疑問に思うことも多いですが、それでも惹きつけられるのはこの小説のすごいところだと思います。そしてこのアイデスの外に広がる「忘れられた世界」、そこと行き来するインボイルという人物が率いる集団と、アイデス以外何も求めない人たちの相容れ無さ。当時の現代社会も映していたんだろうけど、これは現代というか、今起きていることにも当てはまる気がして、この小説の普遍性のようなもの、時代に左右されない部分を強く感じました。SNSとかでもそうだけど、お互い趣味が違う人間同士がまったく歩み寄らない感じに通じるものがあるなと思いました。極端な例えですが、読書好きでもビジネス書しか読まない人と小説しか読まない人の溝に近いものを感じました。それとこの世界がどこか終わりに向かっていく空気を自分は感じました。穏やかに死んでいくというか。徐々に少ないモノで満たされていき、終わりを迎えるような、そんな未来が待っているように感じました。
明確な答えがなく、解釈の幅が大きいので、そういうのが楽しめる人向けの小説だと思います。もし決まった答えがないと許せないタイプの人は絶対読まないほうがいいです笑 とにかく文章が詩的なので美しい表現が好きな人や、ちょっと変わった世界観に浸れる人にも向いています。

ミエ
好き嫌いがはっきりわかれる小説だと思います。途中からひきこまれて、最後はけっこうしんみりしました。小説としては不思議な設定ばかりで、疑問が多いです。3編あるうちの、最初の第一編ではあまり小説の世界観に入れなかったですが、、第二編の「インボイル」の部からぐいっと引き込まれました。一気に血生臭くなるというか、急に自分のいる場所がお花畑からプロレスリングになったみたいな変化が起きます。それで第三編の「マーガレット」の部で死の問題がより大きくクローズアップされます。この小説は死ぬことへの感覚が現実の世界とはずれているから、第二編、第三篇と小説にひきこまれてから、死ぬことへの感覚のずれに直面すると、悲しい意味でけっこうもやもやしました。
あえて対極にある世界に触れたい人とか、もしくは現実には存在しない世界に触れたい人におすすめです。解説で柴田元幸さんが、「これはほとんど死後の世界のように思える」と書いているとおり、この世界では死があまりにも身近にあるし、そもそも世界を構成するものが現実世界とは違っています。地球ではない星の話にも思えてきます。合う合わないは別にして、そういった別の世界を見せてくれます。ちなみに私はあとがきと解説を先に読みましたが、その方が前提がつかめたのですっと読めました。読む人によっては、あとがきと解説を先に読んだほうがリタイアせずに読み切れると思います。

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