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「ログオフできない」

外が薄ら明るくなっている。涙が出るのは悲しいからではなくブルーライトのせいだろう。眠れない夜、私は匿名の掲示板やTwitterをうろつく。決してどこかに匿名で書き込むことはない。私が活字に100%意識を置くことができるのは夜中だけだ。人の悪口、世の中への不満、雑談、真夜中のインターネットは、そこにたしかに人間がいた跡を残す。昼間のインターネットよりも奥の方にあるその世界は、誰かの居場所になっているのだろうか。


リアル

おやすみという言葉と、死にたいという言葉が同時に行き交うインターネットの世界が放つコントラストは、どうしようもなくエモい。死にたい人が手首を切る夜に、愛する人を抱いて眠る人もいる。人には人の生活があって、人生があって、24時間のサイクルを繰り返しながら人間の数だけの生き方がある。まるで水槽に浮かんだヨーヨーのように、ぶつかり合って、水を弾いて、時には割れて、無くなれば新しいものが追加されて、ひしめき合うその「丸」が放つ独特の美しさは、確かにそこにあるのにどうしようもなく脆い。

毎日欠かさず自撮りをあげるあの子は、ブスだというリプライが飛んでくることを分かっている。社会に切り込むあの人は、「そんなのおかしい」と言われることを分かっている。死にたいと嘆く彼もまた、「じゃあ死ねよ」と思われていることを知っている。みんなきっと、馬鹿じゃないのだ。分かっている。知っている。傷ついている。傷つけている。

それでもインターネットで生きることに何かを見出して、その何かに溺れながら、その何かをキッカケに新しい何かを掴むことを目指しながら、何かと繋がる場所を求めて、私たちはインターネットに集まる。ここはもう、仮想空間じゃない。きっと、現実で、リアルだ。


生きてるの

改めて考えるとすごいことではないか。他人の生活が、比較的すぐに覗ける時代に生きていること。そして、自分自身のことも語らずとも表に出すことが出来ること。「個の時代」と呼ぶ人がいる。捉え方によってはそうかもしれないが、私はなかなかそう思えない。個の力が試される今の時代は、その「個」が他人に多く承認されて初めて「個」として認められる。誰かに認めて欲しい、誰かに認められたい。今多くの「個」を形成しているのは、その「個」を取り囲む「群」だ。群に認められなかった個は、「孤」と化す。全体主義だった日本を多様性や個性という単語が凄まじいスピードで飲みこむ今、なんとも気持ち悪いほどに、大衆型の個性が溢れかえってしまっている。

人といくらでも繋がれる、いくらでも自分のことをアピールできる、いくらでも他人のことを見ることができる、そんな世界線で生きていながら、圧倒的に「孤独」な人が増えている。自分が何者なのか、何をしたいのか、どうなりたくて、どこを目指すべきなのか、生きたくない、死にたい、めんどくさい、苦しい、そんなネガティブな孤独が、溢れている。


どんなに特別になろうとしたってみんな一緒だからさ

隣の芝生は青いか。
もしかしたら花が咲き乱れた楽園のような場所に見えるのかもしれない。だから私も負けないように、少しでも青い芝を敷く。誰に見られても恥ずかしくない私を、きっとみんなが作っている。夜は、そんな静かな「孤」を生きる人を攫っていく。太陽を隠す夜は、周りに溢れるキラキラした世界をも覆う。暗闇が照らす自分に、人は何を見るのだろう。スマートフォンが照らす自分の顔は、今日も上手に笑えているのだろうか。

また今日も朝が来る。インターネットから抜け出して、目が追う活字から抜け出して、私は私にログインする。周りからは大して期待されてないし、特別にかわいくもない、だから何も頑張る必要はないけれど、なんとなく、太陽が照らす世界は頑張らなければ生きていけないような気がしてしまう。下を向いて歩くには、周りに人が多すぎてぶつかる。顔を上げるには、世界の目が多すぎる。誰も私のことなんて、見ていないはずなのに。みんなみんな、分かっているのだ。生きづらくなんてない。愛だってそのへんに、安い値段で落ちている。

自分の本当の価値なんて、ググったって出てこない。エントリーシートは嘘だらけ。世界はいつまでも、誰かの作った作り物で回る。作り物の人間が回す作り物の世界は、無機質なようでカラフルだ。誰も私のことなんて見なくて良い。見ないで。近付かないで。触らないで。

そう思いながら、そう叫びながら、夜に手を伸ばす言葉たちが、私にはとても愛おしいものに見えると同時に、夜の黒に星のように散らされた白の言葉たちに、ペンキを被せてしまいたいと思わされるのだ。蹴り上げた脚が行き場をなくしてフラつくように、バランスを崩しながら今日も生きる。

強くあれ。

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