見出し画像

寸景(すんけい)

 『君の名は』を観た母が「『転校生』みたい」と呟いたことがきっかけで、大林作品を観るようになった。一番好きなのは『ふたり』だ。事故で他界した姉のBFに恋をし、その彼から尾道を出ようと誘われた時、「ここを出たかったのは姉。私は目をつむればどこへでも行かれるから残ります」と言ってひとりを選び、小説を書き続けるという話。

 尾道に行けば今もその彼女に会えそうで、気づけば尾道行のチケットを用意していた。そして母に言った。
「尾道に行くの」
「あら、いいじゃない」
「一人じゃないの。広君と一緒に。パパには内緒にしてくれる?」
「なるほど。そうきたか。じゃ、ママも内緒話をしちゃおう。パパには内緒にしてくれる?」
「うん」
「ママも尾道に行ったのよ。パパの前にお付き合いしていた人と」

 映画の中の事故現場で手を合わせ、彼女と彼が別れた場所で広君と写真を撮った。母もここで写真を撮ったのかな。四半世紀後、私は娘に何て言うのかな。