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怒る人/怒らせる人のカタカナ語

海の向こうからカタカナ語がやって来る! 

「言語」全般の話/「日本語」に限った話を、あまりそういった区別にこだわらず緩くやっていこう。とはじめた雑記『ラボにて。』3回目は、日本語に限って、日本語らしく、日本に特有の事情と文化の秘密を身も蓋もなく綴ってみる。コピーライター諸氏にとっても、日本語教師諸氏にとっても、特に役に立たないだろうことを最初にお断りしておきたい。


私のカタカナ語観:

物心ついたというか、読み書きを習いはじめた頃から、カタカナ語は当たり前にそこにあった。専業主婦の母親は晩ご飯のメニューを考え、サラリーマンの父親は休日の家族サービスを考えるなど、多くの人がたぶんカタカナ語で考えていた。または、考えたり行動したりすることとカタカナ語は密接に関係していた。
そんなカタカナ語を、私は好きでも嫌いでもなく、良いとも悪いとも思わなかったし、使い方について他人に意見しようとも望まなかったが、成人後、それについてあなたはどう考えているのかと問われ、さあ特に何も考えてないです。では済みにくい場合が出てきた。強く主張したい意見など持ち合わせないが、感想程度のものはあるし、自分はカタカナ語をどんなものと認識しているのか、このへんで簡単にまとめてみようと思った次第。

まず、カタカナ語は日本語だということ。これは、マクドナルド/McDonald'sにそれぞれ対応する音声が、大きく異なることからも明らか。

次に、カタカタ語は便利だということ。日本人がcomputerと関わりを持つようになった時も、苦労して『電脳』という訳語を開発するまでもなく、ただ陀羅尼のごとく音を写せばよかった。ただし、そうしてできたカタカナ語と、原語の音声が大きく異なったりすることは前述の通り。

更に、カタカタ語は機能的にかつての漢語とほとんどいっしょだということ。新しい文物が中国から朝鮮半島経由で日本に入っていた頃、それまで身近になかった物や概念を指そうとする際に漢語が果たした役割を想像されたい。また、中国の古典に記されている「正しい」言葉以外にも、英語圏では得てして意味が通じない和製英語にも似た多くの新語が生まれたし、果ては漢字そのものまで新たに作られたらしい。

そして、多くのカタカナ語は、時として指すべき対象を持たない「シニフィエなきシニフィアン」として存在する。無理矢理言うなら、それは「指すべき対象がどこにもない」状態を指し、使用者の怠惰や邪念、田舎者っぷりなどを示している。


怒る人にとってのカタカナ語:

とにかく、カタカナ語を多用する人間が気に入らない。そんな人が、高齢者に限らずいつも一定数いる。趣味の問題、誤魔化しやひけらかしなど使用者の態度が許せない。その他、どんな理由が考えられるのか。

ざっくり、生理的反応。または、わからないことを言われた時の焦り+馬鹿にされた(ような気がする)時の悔しさがそうさせるんだろう。

大抵の人間は図星を指されると動揺し、怒り出したりするものだ。わからないカタカナ語は、自分に理解できない、だけど本当は知っていた方がいいまたは知りたい。などなどありつつ、結局のところ先送りにしている課題や、なかったことにしていた何かを思い起こさせる。更に、時として、自分の中の常識が既に過去のものとなってしまっている現実を突きつけもする。そこが辛かったりするんじゃないかな。カタカナ語嫌いの方、実際のところどうなんでしょうか。


怒らせる人にとってのカタカナ語:

カタカナ語を連発し、特に悪気もないまま相手を不愉快にさせる人も、常に一定数いる。私を含めて人はなぜ、時として、相手を不快にし更にはブチ切れさせもするカタカナ語を、わざわざ使ったりするんだろうか。

まず、それ以外の≒以前の日本語では容易に言い表せない事象や概念を正確に指すため。というのが挙げられる。英語などの原語の音声を写した、ある種の陀羅尼として使用されるケースだ。

あとは、前述の通り誤魔化し、ひけらかし、などの結構浅ましいまたは愛すべき動機がそうさせるんじゃないだろうか。こういった動機から使われるカタカナ語は、前述の「シニフィエなきシニフィアン」となることが多い。


暫定的和解または仲裁の実際:

10年ほど前、ネットの回線工事とPC等の設定のため顧客宅を訪問する際、某企業が「ルーター」を禁句とした。まさに、この言葉に怒りブチ切れる人間が続出したためだった。件の企業が

「ルーターはどうされます?」

に代わって使うようにしたフレーズは

「パソコンは何台お使いですか?」

というもので、確かにトラブルの件数は減ったものの、一瞬何のことやら却ってわかりづらい人も多かったようだ。また、意味を取り違え、ムッとして

「結構です!」

などと返す人もいたとか。

「や、これ以上勝手に増やしたら嫁に何て言われるか」

「でも今回はこれだけ通信速度が上がったんですから、奥様もきっとわかって下さいますよ」

現実は、思いもよらなかった方向へズレながら、思いもよらなかった微かな希望を生むものでもある。


(2021.10.23)



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