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【エッセイ】モザイクの向こう側

タケシからのメールなんて久々だ。

科学の進歩の象徴でもあるスマホ
こいつができたおかげで、友人との連絡がとりやすくなった。全く便利な時代だ。

「おい、今日会えるか?」




あの日もそうだった。

「すごく可愛い子なんだけど、紹介しようか?」

タケシからの紹介話に、まだ若かりし頃の僕は食い気味に答えた。

「してしてして!紹介して!!」

「え~、でもなぁ・・・どうしよっかな」

ええーい、こいつは何をもったいぶっておるのだ!

タケシごときに焦らされてる間にも時は流れ、時代は少しずつ進歩しているというのに。

「・・・ちょっとだけ変わったところがある子なんだけど」

「え?どんな風に?」

「タマが好きな自分を受け入れてくれる人が良いらしい」

彼は続けた。

タマを舐められるのは嫌って人と知り合いたいんだってさ」

おいタケシ、これはどういう事だ?

極度のタマ好き・・・
でもタマを舐められるのが嫌って人が良い

僕はCPU「core i9」並の処理能力でこの問題に立ち向かい、1つの結論にたどり着いた。

・・・それ・・・
・・・ど変態やないか!!

Sだ!
ドSだ!!
ついに現れたかサディスティックガール!!

タマを舐められたくない「嫌がる男」のタマをシワがふやけるまで舐めつくした挙句

「ほらどう?嫌なんでしょ?
ねぇホントに舐めるのやめてほしい?」

とか言うタイプのヤツだ!!

タケシは言った。
「なぁ、どうする?嫌なら別に良いよ」

・・・core i9も長考している、無理もない。

友人に「お前はド変態の相手が出来るほどの器なのか?」と問われているも同然なのだ。

そんな時僕の脳裏に浮かんだのはサッカーの名選手、ロベルト・バッジオの言葉だった。

PKを外すことが出来るのは
PKを蹴る勇気のあるものだけだ

そう、タマを蹴る勇気が必要なんだ!
ここはチャレンジしかない。

そういうわけである日、僕は「タマ好き変態サディスティックガール」を紹介してもらうことになった。


彼女は僕のイメージするド変態女とは似ても似つかぬ風貌の普通の女の子だった。
そしてタケシの言う通り、彼女は確かに可愛かった。

「あ、どうも、カジノです。
趣味はギターいじったり、色んなものいじったりする事です」

勝負の時間はそんな軽スベリ要素に満ちた自己紹介から始まった。
当然「色んなもの」への反応は薄いが、そこは良しとしよう。

乾杯の後、彼女は恥ずかしそうに口を開いた。
彼女のグラスにはオレンジジュース。
どうやらお酒は飲めないらしい。

「たまが・・・好きなんですよ」

きた。
とうとう本題が始まった。
マンを辞して本題が始まったのだ。

「そうらしいですね、こいつから聞きました」

見た目も味わい深さもすごく好きで・・」

見た目!?
味わい深さ!?

あの見た目が好きだと!?
おいタケシ、こいつはヤバイ!
ヤバスギル!!!

「シワシワになるまで味わってね」

なんて軽々しく言える空気ではない、この子はマジだ。マジモンの変態だ。

彼女はこう続けた。

「人類って滅亡すると思います?」

・・・???

タマと人類滅亡・・・深い!!
確かに人類はタマが起源だけど・・・
深すぎるぞ!

どんな誘い方だよコレ!!
バナナでは届かない深さだよコレ!!

僕らで子孫を繁栄させようぜ!

なんて爽やかなスマイルとともにグッと親指を立てて軽々しく言っちゃいけない。
なぜなら僕は「タマを舐められたくない男」を演じなければいけないのだ。


「いつか人類は滅亡すると思いますね、
 科学が僕らを滅亡させるんじゃないかな?」

僕がこう言うと、彼女の目が輝き出した。

僕の「タマを舐められたくない男」アピール
が性交、いや成功したのだ。

「すごい!全く同感です!!
私好きだから、たまをいじられたら嫌なんですよ」

なんと「舐められたくない上にいじらない男」が良いのか!なかなかハードルが高い。

「たま・・・お好きですか?」

ついにこの質問がきた。
そう僕は「タマを舐められたくない男」

「いや、実はタマはね・・・
  そんなに好きじゃないんですよ」

どや!!
どやっ!!!

しかし僕の期待とは裏腹に
彼女の目から輝きは消えていった。

「あ~、そうなんですね。
 やっぱ さよなら人類 ぐらいですか。
 私歌詞とか世界観がすごく好きなんですよ~」

は?
さよなら人類??歌詞??

キムタクなら「おい、ちょ・・待てよ」と
言い出すであろうこの展開。

もしかしてもしかして・・・

そう、
彼女はバンドの「たま」が好きだったのだ!

おいおい、ちょいとお待ちなお嬢さん。
この胸の高鳴りと下半身の膨らみをいったいどうしてくれるんだよ。

僕は世代的に「たま」をよく知らない。
ふざけた曲を変わった風貌の人達が演奏するコミックバンド、ぐらいのイメージだった。

皆さんは「たま」をご存知だろうか?

きょーう、じんるいがはじめてー
木星についたよぉ~

でお馴染みの「さよなら人類」って曲をオカッパ頭の人が歌っていて、山下清風のランニングシャツを着た坊主の人が洗面器を叩くバンド

ぐらいの認識ではないだろうか?

彼女は言った。
「たまはさよなら人類で科学の進歩が人類を滅亡させるって伝えてるんです。あの曲は人類滅亡の最後の日の地球の情景を描いているんです。」

なるほど、確かに変わった子だ。
タケシ、君の言ってた話は間違いじゃない。

彼女の説明はこんな感じだった。

今日、人類が初めて木星に着いたよ
ピテカントロプスになる日も近づいたんだよ

ピテカントロプスとは原始人だ。つまり

人類は木星に行けるほど科学を進歩させたのに
僕らはサルに近付いていく


という矛盾。

二酸化炭素を吐き出して
あの子が呼吸をしているよ

から始まる「訳の分からない歌詞」は科学者が作り上げた公害、戦争、核兵器を別の言葉に置き換えて作られたとっても深い人類滅亡ストーリーらしい。

タケシが言った。

「ところでカジノ、お前はなんで科学が人類を滅亡させると思うんだ?」

僕は天井を見上げた。

なぁタケシ、
オレ達はいったい何をやってるんだろう。

今日はドS変態女と酒を飲みながらエロトークに興じるはずだった。

それが3人が顔を突き合わせ真剣な顔で科学と人類滅亡の話をするハメになるなんて。

ははは、笑っちゃうよまったく


仕方がありませんね、お嬢さん。
見せてさしあげましょう、この私の本気を!!



僕は本気で科学が人類を滅亡させると思っている。しかしその考え方は「たま」と少し違う。

公害、戦争、核兵器、これらは確かに人類が作り上げた地球の脅威だ。
ただ僕の思い描く人類滅亡ストーリーは違う。

冷凍餃子とインターネット

人類を滅亡させるのはこいつらだ。

まず、冷凍餃子。
なんなんだよコレ、美味すぎるよコレ。

そう、今の冷凍食品は美味しすぎる。

「女は男の胃袋をつかめ」
などと昔から言われているが、手軽に美味しいモノを食べられる現代人の胃袋を掴むのは容易ではない。

研究者が研究を重ね、ようやく完成した冷凍食品より美味しい料理を毎日作り続けられる主婦は存在するのだろうか?

そう、今は飽食の時代。
仕事で疲れて帰宅した後でも冷凍食品を使えば余裕で自炊をこなせる時代なのだ。

つまり現代は1人で簡単に生きていける時代、いやむしろ1人の方が生きやすい時代とも言えるだろう。

そしてインターネット。
こいつを使えばエロ動画にも困らない。

思春期の頃、僕らはモザイクという名の敵と戦っていた。
モザイクの向こう側にはどんな景色があるんだ。

気になる・・・見たい!見たいっ!!

その好奇心が欲望に変わり、モザイクの向こう側へとたどり着くために僕らはモテる魅力的な男になる必要があった。

ところが今はネットで手軽にモザイクの向こう側のビューティフォーな景色を見ることが出来る。

つまりモテなくても裸が見れる。
という事は女の人のカラダへの興味が薄れ、また魅力的な自分を作り上げる必要もない。

そうなった時、女の人は魅力的な男のいない時代を生きることになる。

そして男だけでなく女の人にとっても冷凍餃子がある。

わざわざあんなヤツの為にメシ作る必要なくね?

という疑問が生まれ、結婚というシステムは形骸化し子供の数も徐々に減っていく。

そして人類は滅亡する。

これが僕の考える人類滅亡ストーリーだ。


タマ好き変態女は目を輝かせて笑っていた。
その笑顔はとても素敵だった。

タケシは言った。
「その説が実現したらお前予言者になるな」

「予言者か、でもその頃にはオレも居なくなっちゃうんだけどね」

そんな感じでエロトークとはかけ離れた人類滅亡トークで僕ら3人は遅くまで盛り上がった。

当然の如く、僕と「タマ好き変態サディスティックガール」はその後何の進展もなかった。
でも今となっては良い思い出だ。


それから時は流れ、科学はさらに進歩した。
今やスマホで簡単に動画も見れる時代だ。

人類が木星にたどり着くのも時間の問題なのかもしれない。

僕は時々、YouTubeで若かりし頃の「たま」の動画を見る。
当時はおちゃらけバンドと思っていたけど、実はとてもクオリティが高く、僕は歌詞の奥深さと世界観に圧倒された。

一発屋扱いされて表舞台から消えた彼ら。
きっとあの頃、時代が「たま」に追いついていなかったのだろう。

あの子は花火を打ち上げて
この日が来たのを祝ってる
冬の花火は強すぎて
僕らの身体は砕け散る

公害、戦争、核兵器
人類は科学をどこまで進歩させるのだろう





今日は奥さんがいないから冷凍餃子でも食おうかな、なんて思っていたらスマホにメールが届いた。


タケシからのメールなんて久々だ。

科学の進歩の象徴でもあるスマホ
こいつができたおかげで、友人との連絡がとりやすくなった。全く便利な時代だ。

「おい、今日会えるか?」

タケシは続けた

「今大阪に帰ってきてるねん。
嫁さんもお前に会いたいって言ってるから、久々に3人で飲もうぜ」

「え、でも妊婦なのに大丈夫か?」

「ああ大丈夫、嫁さんは酒飲まんから。
 じゃあな、また後で」

僕らが3人で会うのはあの日以来だ。

人類は滅亡する

なんて言ってた「あの子」がタケシと新しい命を次の時代に残す

なぁ、タケシ

例えオレが予言者だったとしても
こんな未来は予言出来なかったぞ

モザイクの向こう側を見るように
少し目を細めてみれば
未来にビューティフォーな景色は見えるのかな?

人類は滅亡する

いや、きっと人類はまだ滅亡しない

CPU core i9並みの処理能力でそんな事を考えながら、僕は手に取った冷凍餃子を冷凍庫に片付けた。


僕ら人類が木星に着くのは
どうやらまだもう少し先のようだ。

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