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雑草集団が春に咲かせる「一番」の花/高校野球ハイライト特別篇・近江

去年秋の県大会決勝。近江の主将を務める中村駿介の姿は、グラウンドではなくベンチにあった。スタメンを外れた原因はコンディション不良。
「確かに無理はさせられない。ただ、何かあれば主将でも出られないというのを全員が知ってほしい。危機感を芽生えさせるため、監督として本気度を示す必要はあった」。
4年ぶりに秋の県大会優勝を果たし、近畿大会もベスト8入り。2022年以来のセンバツ甲子園を射程圏に収めながら、多賀章仁監督の表情は明るくない。

2022年・センバツ準優勝の記念プレート

失礼を承知で言えば、今季の近江には「順風満帆」というイメージの選手が少ないように感じる。
夏の甲子園で失点につながるエラーをした中村は、気づけば外野手へとコンバートされていた。エースと目されていた左腕の河越大輝はケガの影響で本調子ではなく、代わりに急成長を遂げた右腕の西山恒誠も、近畿大会の準々決勝で痛恨のサヨナラ負けを喫している。
例えるならば、まっすぐに成長する姿を夢見ながら、強い風に吹かれ、冷たい雨に打たれ、何度も踏まれてきた雑草集団。華やかな印象は全くない。

今季のチームスローガンは『一番』

ただ、それもチームの良さかもしれない。知名度ある中心選手がいないからこそ、レギュラー争いは近年にないレベルで激しい。「看板不在」という厳しい質問に、中村主将が力を込める。
「『負けたくない』という気持ちを持っている選手は多い。新チームになってガムシャラさも強く出てきた」
センバツにはどんな選手が出場し、どんな輝きを見せるのか。何もわからない状況さえも今は楽しみにしていたい。鮮やかな花は支柱がなくとも咲くのだから。

西山恒誠と河越大輝の左右両輪

気づけば山田陽翔らの準優勝から2年。「滋賀から日本一」を掲げてきた野球部を横目に、今年はサッカー部が国立競技場までたどり着いた。「近江と言えば野球」が揺らぎ始めた現状を、中村主将は「悔しい」と言い切る。
「もっとどん底に落ちてもいい。強いものに向かって燃えたぎる姿勢を貫けば、最後にやってくれるという期待を持っている」
厳しい言葉を並べ続けた多賀監督は、このチームがどこよりも逆境に強いことを知っている。センバツ出場校の発表は1月26日。大雪が積もった彦根にも、花が咲く土壌は備わっている。

外野起用が見込まれる中村駿介主将

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