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「Art Fesitival」奥能登国際芸術祭編 ~地域の特徴から芸術祭を考えてみよう~

channelによる、みなさんとの対話と交流の場、PLAZA。日本や海外で開催されている芸術祭にフォーカスし、その実態や内容についての知識をシェアしながら、様々な切り口からディスカッションを行っていくPLAZAの芸術祭企画の第2弾。今回は、奥能登国際芸術祭に注目し、地域の特徴と芸術祭がどのように融合していくことができるのか考えました。当日のプレゼンテーションの内容をレポートでお届け!

はじめに

こんにちは。今回のPLAZAを担当しました、神道朝子です!
学部時代は文化人類学、大学院ではアートプロジェクトの研究/運営を専攻し、社会や人々の日常とアートがどのように融合していくことができるのかに関心をもっています。

奥能登国際芸術祭は、私が珠洲を調査のフィールドに選ぶきっかけとなりました。
芸術祭で出会ったご縁に導かれ、私は学部時代、奥能登地方に根付くキリコ祭りの山車「キリコ」と祭り参加者がどのように関係し、キリコは祭りでどのようにふるまっているのかを調査していました。祭りの調査を通して関わった地元の方々が芸術祭に距離を置いている(個人や地域によります)ことに対して、違和感を感じ、芸術祭と地域の文化との交流を考えていきたいと思っています。

今回のテーマである奥能登国際芸術祭は、土地性(サイト・スペシフィシティ)が強い芸術祭です。奥能登国際芸術祭を理解する上でも欠かせない地域の特徴を知ることから芸術祭を考えていきたいと思います。


奥能登国際芸術祭(Oku-Noto Triennale)について

奥能登国際芸術祭は3年に1度行われるトリエンナーレ形式の芸術祭。
「最涯(さいはて)の芸術祭、美術の最先端」をテーマに、能登半島の先端に位置する珠洲市全域で開催されます。国内外のアーティストが珠洲という土地だからできる作品表現をすることが特徴。これまで、2017年、2021年(2020年開催予定がコロナにより1年延期)と2回開催されてきました。2023年には第3回目の開催が決定しています。

ディレクターと実行委員長
Art Festival 2022 の第1弾で紹介された瀬戸内国際芸術祭、大地の芸術祭と同じく総合ディレクターは北川フラム氏が務め、実行委員長は珠洲市長である泉谷満寿裕氏です。

*開催目的*

①珠洲の魅力(伝統、文化、自然、食等)を広く伝える
②市民が珠洲の潜在力を再認識し自信と誇りを持つ
③全国から集まった鑑賞者、サポーター、市民が交流し新たなつながりが生まれる
=>それにより、珠洲の魅力を高め、若い人を惹きつけ、UⅠターン、移住・定住につなげる

珠洲に住む人を増やすということを目標にしていることが特徴的ですね。
そのためにも、土地の魅力を内外に発信していくことが芸術祭に期待されています。

詳しくはこちら
芸術祭概要 | 奥能登国際芸術祭2023 (oku-noto.jp)


開催地域「珠洲」について

今回のテーマである奥能登国際芸術祭が開催されている地域はどんな場所なのでしょうか?

珠洲は石川県の能登半島の先っぽ!
過疎が進む地域です。

自然が豊かで、豊かな食文化が根付く、美しい地域です。
私は、珠洲を訪れると五感が開放され、様々な音や匂いに優しく包まれる感覚がしてとても好きです。

さらには、夏から秋にかけて開催される祭りがあつい!
祭り好きがたくさんいて、市外に移住している人も帰ってきて、盛り上がる祭りが開催されます。
キリコ祭りは奥能登地域で広く開催される祭りで、日本遺産認定を受けているものです。
キリコとは切子燈篭の略称です。地域により異なるキリコが見られますが、なんとも美しく凛々しい総漆塗の山車です。キリコがあることで、その土地への帰属意識が培われるのかもしれません。

キリコ祭りについて詳しくはこちら
日本遺産「灯り舞う半島 能登 〜熱狂のキリコ祭り〜」能登のキリコ祭り (notokiriko.ishikawa.jp)


芸術祭を考える視点

日本で行われる地域芸術祭を考える上で、様々な論点を考えていく必要があるように思えます。ここでは、芸術祭に関する議論をおさらいしながら、どのような論点を持って芸術祭を考えていけばいいのか検討します。

芸術祭が日本で活発化した流れ
まずは、地域芸術祭の活発化にいたる社会的な文脈を考えます。

1990年代以降を中心に、作家が社会との関わりを求め、美術館を飛び出し、地域社会に出ていく「オフ・ミュージアム」の傾向がありました。背景には、地方行政における文化の支出がハードからソフト面に移っていく傾向や1995年阪神・淡路大震災をきっかけに、アーティストやアート関係者がアートが社会に何ができるのかを考えるようになったことがあります。その結果、芸術領域のみにとどまらず、まちづくりなどの他分野と結び付けて社会の仕組みへ働きかけるアートプロジェクトが広がるようになりました。

このような影響もあり、通常集客のために都市部で行われる国際展の常識に反し、日本では山村部を舞台にした芸術祭が行われるようになりました。これらは、人口減少が進む過疎地域の活性化を狙って開催されている側面もあります。

地域活性化/まちおこしとしての芸術祭
このような過疎地域の活性化として開催された「大地の芸術祭」は、里山に観光客が沢山くること、観光業としての効果があることが明らかになる機会になりました。

以前のPLAZA「大地の芸術祭」のレポートはこちらから
「Art Festival 2022」大地の芸術祭編|channel (note.com)

「大地の芸術祭」を成功例に、地域活性化の起爆剤として芸術祭を導入したいという地方自治体が増える一方で、地域活性化/まちおこしに芸術が利用されていることを批判する声もあがります。地域で行われる芸術祭は、地域の人々との関係性の構築に重きが置かれることが多く、挑戦的・実験的な芸術は置かれる機会が減りました。そのことに関して危惧を示す研究者もいます。

公共性
ほかにも、地域で行われる芸術祭を検討する上で、欠かせない視点は公共性について考えることです。

地域での芸術祭は人々の日常の場面に近い場所に作品やプロジェクトが入ってくることが多く、住民は歓迎していなくても逃れられない存在であることを忘れてはいけません。野外作品などは芸術祭の会期外も恒久的に設置されることがあり、開催地に住む住民の生活と未来を考えていく事が必要とされます。
さらには、地域で行われる芸術祭の多くは地方自治体の資金も開催経費に当てられていますので、公的資金を使った芸術祭であるということも意識しなくてはいけない視点です。

持続可能性
サステナビリティは環境の事のみならず、芸術祭が継続可能な規模感であるのかを考える上で必要な視点です。

芸術祭は2年に一度、3年に一度の頻度で定期的に開催されるという特徴があります。継続していく過程の中では、常設作品の維持管理や運営側の人力・体力・財力の問題など様々な障壁があります。さらに、地方自治体の政権交代や災害対策などにより、ノウハウの蓄積や長期的な戦略の立案・実行が遅れることもしばしば。継続的に開催することは難しいけど、芸術祭が成功していると評価されるのは必要とされる要素だと考えられます。

もちろん、持続していくことが開催地域にとって望ましいことなのかも考える必要がありますね。

アーティストの機会として
地域芸術祭ではアーティストが滞在制作・何度も通い制作を行うことで、地域とのつながりを作ることができるだけではなく、芸術祭は発表の場の確保・キャリア形成・制作拠点の確保としても期待できるといわれます。

芸術祭を巡る議論は今回紹介したこと以外にもさまざま。ぜひ、今回の論点から興味を広げ、調べてみてください。

*参考にした文献はこちら*
熊倉純子 2014. 『アートプロジェクト:芸術と共創する社会』熊倉純子監修. 東京:水曜社
暮沢剛己 2008. 「第2章パブリックアートを超えて:『越後妻有トリエンナーレ』と北川フラム䛾十年」『ビエンナーレ䛾現在』暮沢剛己・難波裕子偏 235-267 東京:青弓社
小泉元宏 2010.「誰が芸術を作る䛾か:『大地䛾芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ』における成果物を前提としない芸術活動から䛾考察」『年報社会学論集』 (23): 35-46. doi.org/10.5690/kantoh.2010.35.  
藤田直哉 2016. 『地域アート:美学/制度/日本』東京:堀之内出版
宮津大輔 2014. 『現代アート経済学』東京:光文社.
宮本結佳 2018. 『アートと地域づくり䛾社会学:直島、大島、越後妻有にみる記憶と創㐀』京都:昭和堂. 
宮本結佳 2019. 「地域がアートに出会う時:直島における展開過程䛾検討」『フォーラム現代社会学』 (18): 111-121. doi.org/10.20791/ksr.18.0_111.
山口裕美 2010.『観光アート』東京:光文社. 
吉田隆之 2021. 『芸術祭と地域づくり改訂版:”祭り”䛾受容から自発・協働による固有資源化へ』東京:水曜社.


奥能登国際芸術祭を考える

さて、芸術祭に関する議論を紹介しながら複数の視点を考えてきました。ここからは、奥能登国際芸術祭について考えていきましょう。

来場者アンケートからみる芸術祭
奥能登国際芸術祭の来場者の特徴はなんといっても、珠洲市内・石川県内から多くの来場者が訪れたということです。


*報告書より筆者が作成

市民ボランティアとして参加する人も多く、市民が珠洲市の良さを再認識・再発見する機会となり、地元への自信と誇りが高まったと報告されています。

さらに、芸術祭の目的とされる、珠洲市の魅力を発信することで移住者・定住者を増やすという目標は、好調な結果が出ています。
芸術祭開催前の5年間と開催してからの5年間で移住者が2倍に増えているようです!

しかし、一方で県外からの来場者が少ないので珠洲市に滞在し食事をすることで得られる経済波及効果は低いと指摘されます。

詳しい報告書の内容はこちらから
okunoto2017_report.pdf (oku-noto.jp)
6348_8225_misc.pdf (suzu.lg.jp)

芸術祭は内発的なのか?芸術祭開催への過程と開催形式の現状
先述のとおり、奥能登国際芸術祭は地域活性化を目的に開催されています。
芸術祭を歓迎する泉谷市長の存在は大きいですが、忘れてはならないのは民間側からの要請により始まったということです。

珠洲市は原発の誘致をめぐりおよそ30年間に渡る議論がありました。原発の誘致という外部の資本に頼る開発ではなく、珠洲市の魅力を発信し観光客にきてもらうという内部的開発を目指して芸術祭がはじまります。

しかし、芸術祭開催にはノウハウやアーティストとのコネクションなど専門性が必要になるため、芸術祭ディレクターの北川フラム氏率いる民間会社アートフロントギャラリーに全面委託するという形式で開催されます。それは芸術祭の支出に占める割合をみることでも明らかです。

ここで、民間会社に全面委託する形式で開催される芸術祭は目指していた珠洲市の内発的な開発と考えられるのだろうかという疑問の声があがるようになります。つまり、外発的な開発案である原発誘致への反対として位置づけられた芸術祭への期待は、結果として民間会社による外発的な開発という形式になっていると指摘できるということです。

市民は芸術祭を受け入れているのだろうか?
私が大学の卒業研究の調査で関わりをもった珠洲市蛸島町の祭りに参加する人たちは、芸術祭に関して自分たちとは関係のないことと考えている人が多いように感じられました。

祭りに積極的に参加する人たちに芸術祭について聞いてみると、
「あー、やってるね」
「(自分たちには)アートの良さがわからない」
といったように、芸術祭への関心が低いことがわかりました。

インタビュー調査をしていると祭りは自分たちの文化として、地域の人から様々なエピソードが出てくるのですが、芸術祭はあまり関心がない他人事のイベントとしての側面が大きいのだと感じました。(もちろん、個人差や地域によってもさまざまな意見があると思います。)

今後にむけて
奥能登国際芸術祭は地域の特徴に注目し、土地性を活かした作品が多くありますが(作品についてはぜひ芸術祭ホームページなどで見てみてくださいね)、地域の人が他人事として芸術祭と自身に線をひいてしまうのは残念なように思えます。

芸術祭を3年に1度開催されるイベントとして捉えるのではなく、地域の人にとって、日常的活動であり、日常に芸術があるという状況に変化させていくことができたら、地域の人も自分事として捉えられるのではないでしょうか。

そのためにも、運営やディレクションを外部に全面委託する形ではなく、地域をよく知る人/珠洲の人がディレクションを担っていく必要があるのではないでしょうか。

地域で行われる芸術祭はどのように、地域の人の文化として根付いていく事ができるのか。奥能登国際芸術祭のこれからが楽しみです。

奥能登国際芸術祭2023開催決定!ぜひご注目ください
詳細はこちらから
奥能登国際芸術祭2023 トップページ | 奥能登国際芸術祭2023 (oku-noto.jp)

今回ご紹介できなかった奥能登国際芸術祭の作品はまた別の機会にご紹介できればと思います♪





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