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ショートショート49『記憶喪失』

「ここはどこ?わたしはだれ?」

どうやら俺は記憶喪失になったらしい。

医者によると、歩行中に車とぶつかり
思いっきりふっとばされるも身体は無傷。
しかし、ぶつかったときの衝撃で
脳が揺さぶられたのか、気絶しそのまま
3日間ほど意識がなく、目覚めた時には
記憶のほとんどがなくっていた。
目の前にいる家族のことも、
自分のことも何一つ覚えていない。

家族、
というと本来自分の次に大切な人として
あげられるが、それは長い記憶の産物
だったようだ。
目の前にいる家族は今の俺にとって
やたら慣れ慣れしく話しかけてくる他人にしか
見えない。
医者の方がよっぽど治療とかしてくれる分、
大切な存在だ。

ある日、
母親(と言われている年配の女性)が俺に

「あなた、やよいちゃんのことは覚えてる?」

と話しかけた。
その瞬間、おれの脳内にやよいとの全ての思い出
が残っていることに気付く。
目から自然と涙がこぼれだす。

「ああ、覚えてる。もちろん覚えてるよ。
やよいは俺の大切な彼女だ。」

居ても立っても居られない。
彼女に、やよいに今すぐ会いたい。

家族は身体が心配と止めてきたが
医者が「まあまあ、これがきっかけでかずき君の
記憶が戻るかもしれませんから。」
と説得してくれて病室を出ることができた。

やはり、医者のが家族より俺のことを
理解してくれている。

彼女の家の場所も
そこに行くための最短経路も
この時間、彼女が家にいることも
全て知っていた。

彼女の家にたどり着く。

ピンポーン

「はあい!」

やよいだ。間違いなくやよいの声だ。

「かずきです」

「あれ、かずきじゃん。
どうしたの、そんな息あげて…」

「俺さ、どうやら記憶喪失になったみたいで、
それで自分のことも家族のことも何もかも
記憶がなくなったんだけど、唯一、
やよい、お前のことだけは覚えていたんだ。
だから、だから俺、すぐに会いたくて
それで走ってここに来たんだ」

「なるほど〜本当に記憶なくしてるみたいだね。
しかも、都合よく。」

「え」

「私たちはほんの5日前に別れたばかりなの。あなたの浮気が原因でね。そのことも、キレイさっぱり忘れたわけでしょ?そのまま、記憶と一緒にあなたの浮気性も消えるといいね。お大事に。さよなら。」


バタン


次に意識を取り戻したときは
病院のベッドの上だった。
ここまでどうやって戻ってきたのかの
記憶はない。
しかし、彼女の記憶は消えていない。


「みゆきとまた会いたいなあ…」






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