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【短編小説】ジョセイセンタクキ


「ジョセイセンタクキ、いかがでしょうか?」

そうお店の前で通行人に対して一生懸命語りかける女性があまりに自分のタイプのど真ん中で思わず見惚れてしまい、何と言ってるかはよく分からなかったが、状況から察するにこの女性が何かを販売してる人であることは明らかだった。

年齢=彼女いない歴の俺はそもそも女性と話すのが得意ではない。めちゃくちゃタイプの女性なら尚更だ。だから、この状況を利用しない手はない。せめて、ビジネス用の会話だとしても、この女性と話せたらそれで十分だから。



「あの〜ジョセーセンタッキって何でしょうか?」

まずい。
声がうわずり、うまく口が動かせない。


「はい!ありがとうございます!『女性選択機』はその名の通り、様々なタイプの女性の中から毎朝1人選択していただき、その方と1日限定で交際することができる機械でございます。日本の少子化問題は若者の恋愛経験が不足してるという考えの元、国家プロジェクトとして製作しておりますので性能はご安心ください。」


俺のヘンテコな喋りなど気にも留めず、その清楚な見た目通りの丁寧な口調、優しい声のトーンでしっかりと説明をしてくれたが、内容はまた頭に入ってこない。

だって、最初の「はい!ありがとうございます!」の時の笑顔、かわいすぎるでしょー!!!!!
こっちがありがとうございます!って言いたい!
スマイルに課金したい!
正直、この機械についてはよく分かんなかったけど、まあ購入したら喜んでくれそうだし、まあボーナス入ったばっかで買えない値段じゃないし、買っちゃおう!


購入し、説明書をしっかり読み、
いざ使ってみると『女性選択機』はまさに
男にとっての夢の機械だった。

男なら誰もが一度は夢見たことがあるだろう。

いろんな女性をとっかえひっかえに関係をもち
その数を正確に覚えれないほどの経験人数を
積むことを!

しかし俺はそういうつもりで使うつもりが0。
ではないが、俺にとってはあの販売員の女性に告白するためのトレーニングとしての目的の方が大きい。

今の、女性と話すと声がうわずってしまう俺では撃沈することが目に見えているが、経験人数を積み、女性に慣れた俺なら必ずや、成功できるはずだ。

そうして俺は毎日いろんなタイプの女の子たちと付き合い、1年も経ったころにはそこらの男たちには負けない経験人数と女の子への慣れを手にした。

そして改めて確信することができた。
あの子を超える人はいない。
間違いなく俺は一目惚れをしていた。


あの子のもとへ向かう。
どうやら俺のことは覚えてくれてたようだ。

しかし、あの時の俺とは違い
今は落ち着いたトーンと自然な笑顔で話せている。
そして俺はついに告白した。


「あの機械を使って、1年間365日、いろんな女の子と付き合いましたが、あなたを超える人には出会えませんでした。あなたのことが世界でいちばん好きです。付き合ってください。」

少しおどろいた顔で3秒ほどの沈黙のあと
彼女は静かに首を縦にふり、
はじめて出会った時に見せてくれたのと同じ笑顔で

「はい!」

と答えてくれた。

この1年、いやこれまでの人生は
今日のための伏線だったのではないか?
そう言っても過言ではない喜びが
全身をかけめぐった。


俺はこの子を一生幸せにする。
そう心に強く誓った。






翌日、俺は別の女を探し始めた。
誰か他に良いヤツいねえかな〜?




この作品で意識したことを1つ挙げるなら
主人公の男性の「女性の呼び方が変わっていくこと」です。

最初は「女性」と呼んでいたところから
機械使用後は「女の子」へ
そしてラストは「女」「ヤツ」になっています。

ぼくは人から「お前」って言われるのが
とても嫌いで高校時代の同級生に
「お前じゃなく名前で呼んでくれ」と
頼んだことがあるくらいです。

日本語は英語に比べて人称代名詞がとても多いですよね。だからこそ、何を選択するかに、その人の無意識が投影される気がします。

女性って呼んでいた時の彼と
女って呼ぶようになった彼、
どちらと仲良くしたいのかといえば
僕は絶対前者です。

でも、女性選択機がもしあるなら
50万円までなら購入すると思います。
だって、男の夢ですから。

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